核は積んでいたのか 沈没の巡洋艦「モスクワ」搭載可能性とロシア“悪夢のシナリオ”

ほとぼり冷めたころにシレっと回収か?

 なお、これまた推論ですが、実際に核兵器を使用する場合、連鎖的な世界核戦争を起こさせない手段として、たとえば、ウクライナの黒海沿岸部のきわめて人口が少ない場所、あるいは、無人の海上で爆発させるという方法があり得ます(特に後者の可能性が高いと思われます)。その場合、巡航ミサイルのような精密誘導は必要なく、P-1000でその役割を果たすことは可能といえるでしょう。

 あえて核弾頭装備の弾道ミサイルを発射したり、核爆弾を搭載した爆撃機を飛ばしたりして同様のことを行った場合、アメリカを始めとしたNATO諸国がすぐさま対応し、核兵器の連鎖的な使用から世界戦争に突入する可能性が高まります。しかし、すでに黒海のウクライナ沿岸部を遊弋(ゆうよく。敵に備え海上を巡回)している軍艦から対艦ミサイルを撃つのであれば、初動段階での意図の露呈と、連鎖的な核戦争勃発の危険性をかなり抑えて、「核爆発による脅し」をかけられます。そのようにロシア側が考えた可能性があると筆者は推察します。

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スラヴァ級巡洋艦「モスクワ」が備えるP-1000「ヴルカーン」対艦ミサイルの発射機。右下の海軍兵士と比べると巨大さがわかる(画像:NATO)。

「モスクワ」の被弾で火災が発生した際、残された艦隊が後退したことの説明も、ネプチューン対艦ミサイルによる以降の攻撃を恐れただけでなく、「爆発も含む核事故の可能性」についても恐れたとは考えられないでしょうか。

 とはいえ、実は核弾頭は外的要因によって破損し、「放射能漏れ」こそ起こしかねませんが、そう簡単に爆発してしまうものではありません。ロシア側は「モスクワ」の炎上が鎮まったことで当座の危機が回避できたため、あえて同艦については沈むに任せて、あるいは意図的に沈めることで、搭載していた核弾頭の「冷却鎮静化」を図ったのかもしれません。

 だとすると、事態が鎮静化したのち、ロシアは「モスクワ」引き揚げの名目で核弾頭を回収するかもしれないのです。もしかしたら、そのようなプランを、すでに計画しているのかも。とはいえ、これら全て筆者の推論でしかないのですが。

 全人類にとっての悪夢とも言える核兵器が、沈没した巡洋艦「モスクワ」に積まれていないことを願っています。

【了】

【改名前の姿も】スラヴァ級巡洋艦「モスクワ」を上から横から

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Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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