高射機関砲復活の目はあるか 独「ゲパルト」ウクライナへの供与でにわかにざわめく

利点はコストだけ…? 現代における高射機関砲の使い方

「ゲパルト」は本来、機甲部隊の近距離防空用です。ウクライナ軍の機甲部隊はロシア軍より劣勢であり、戦果を挙げている様子はまだありません。またそのような運用には訓練も必要で、よって即戦力にはならないでしょう。

「ゲパルト」に期待されるのは、そうした機甲部隊の戦力を補強することよりUAV(無人航空機)、いわゆるドローン対策です。最近の戦訓だと、戦車が恐れる空からの敵は、攻撃ヘリコプターではなくドローンです。ロシアによるウクライナ侵攻においては、改めてその威力が見せつけられています。そのドローン対策に見直されているのが高射機関砲です。カタールが「FIFAワールドカップ2022」警備用に「ゲパルト」を購入したのも、ドローンを使ったテロ対策とされています。

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対空ミサイルと高射機関砲を装備したロシア製「ツングースカ」対空自走砲。写真はウクライナ陸軍の車両(画像:ウクライナ国防省)。

 ただ、攻撃ヘリコプターや有人航空機を対象にした、旧式の部類に入る「ゲパルト」のレーダーや射撃管制装置が、ドローンにどこまで有効かはわかりません。ロシアには対空ミサイルと高射機関砲の両方を装備した「ツングースカ」や「パンツイリ」という自走対空システムがありますが、シリアの実戦でそれらがドローンを撃墜したのは、ほとんどが対空ミサイルだったといわれます。

 それでも高射機関砲が注目されている要因は、何といってもコストパフォーマンスです。中東では数万円のドローンを迎撃するのに、1発3億円のパトリオットミサイルが使用されたこともありました。市販品と同等の安価な小型ドローンを迎撃するのに、高価な対空ミサイルを使うのは明らかにオーバーキルです。身を守るために手段は選んでいられない、とはいうものの、経済的妥当性は無視するわけにもいきません。

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スティンガー対空ミサイルを追加したプロトタイプ(画像:Manni26300、CC BY-SA 4.0〈https://bit.ly/3vRDpeb〉、via Wikimedia Commons)。

 とはいえ、たとえ経済的妥当性を無視できたとしても、安価なドローンで飽和攻撃を仕掛けられたら、数の限られた対空ミサイルでは対処しきれません。そうした事態への対策を含め、現在、対ドローン用レーザー兵器や電波妨害システムなどの研究開発が進められるなか、従来の高射機関砲が果たすことのできる役割というと、これらの効果的な対策が実用化されるまでの、当面のその場しのぎ的な対策、ということになりそうです。

「ゲパルト」は、ウクライナの対空システムの補強というより、どちらかといえばドイツの外交ツールとして持ち出された面が大きいようです。

【了】

【写真】ド派手に空を焦がす「ゲパルト」の夜間射撃

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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1件のコメント

  1. 飛行機を追い回す機関砲の動画が出回っているが、有人機が一生懸命逃げると中々当たらない。ドローンは回避行動はやらないからうまく当たるんじゃないかな。