Uボートを振り切った! 空母に改造デカすぎてムリ! 欧州“超速豪華客船”たちの第2次大戦

随伴可能な軍艦のない孤高のライナー

 最後はイギリスの「クイーン・メリー」。前出のフランス船「ノルマンジー」に対抗しようと建造された排水量8万1235総トンの巨船で、機関出力は20万馬力。平均速力31.69ノット(約58.7km/h)、北大西洋を3日と20時間で走破する記録を作りました。

 第2次世界大戦の開戦後、クイーン・メリーは軍隊輸送船に転用されます。その際、灰色に塗装されたことで「灰色の幽霊」との異名が付けられました。同船はその大きさを活かして1万6000名もの兵士を収容することが可能だったとのこと。

 他方で、イギリス海軍に「クイーン・メリー」の速力に5日間追従できる航続力を有する海軍艦艇が存在しなかったことなどから、「クイーン・メリー」常に単独航海だったといいます。なお、この単独航海時に高さ28mの波を受けましたが、巨大な船体ゆえに転覆しなかったという逸話も残っています。

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フランスの客船「ノルマンジー」(画像:アメリカ海軍)。

 ドイツはこの船を撃沈しようとしましたが、あまりの速力に潜水艦では襲撃できず、巡洋艦でも追撃は困難で、大戦が終結するまでほぼ攻撃を受けることはありませんでした。

 生き残った「クイーン・メリー」は、戦後、客船に再改装され、1950年代まで大西洋航路で活躍します。しかし、1950年代は大西洋を大型旅客機が行きかう時代。特に、1958(昭和33)年に大型ジェット旅客機のボーイング707がロンドン~ニューヨークを6時間で結ぶようになると、大西洋航路の乗客は激減しました。その後「クイーン・メリー」は引退したものの、アメリカ西海岸のロングビーチで、2022年現在も保存されています。

 各国の威信をかけ、北大西洋で豪華さや速力を競った大型高速客船は、航空機の発達により、消滅しました。他方、このような大型高速船舶は、戦略兵器として他者では替えが効かない存在として重用されたとも言えます。

 1982(昭和57)年に南大西洋で起きたフォークランド紛争のときには、客船「クイーン・エリザベス2」が輸送艦としてイギリス海軍に徴用されています。ただ、これらはあくまでも非常手段。大型高速船であるクルーズ客船が、軍隊輸送船になるような時代は来てほしくないものです。

【了】

※誤字を修正しました(8月1日8時15分)。

【戦艦「大和」以上の大きさ!】巨大かつ快速な豪華客船「クイーン・メリー」の全景

Writer: 安藤昌季(乗りものライター)

ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。

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1件のコメント

  1. 当時、潜水艦は浮上した状態で最大速力20ノット、巡洋艦は30ノット、駆逐艦は35ノットぐらい。これらはあくまで“最大速力”なので、常時発揮できるわけではない。
    一方で記事内の豪華客船たちは“平均速力”と書いてあるように、ほぼ常に巡洋艦の最大速力レベルで航行できたので、仮に発見しても追跡はほぼ不可能。
    軍艦みたいな装甲がない船体で戦艦大和以上の機関出力を発揮するのだから、当時における最大最速の存在といえる。