函館本線「山線」140km廃止合意 駅で列なす通学生どうなる? 課題山積の転換バス問題
そもそも運転手確保できるの? 求められる「次」を見据えた話し合い
今回のように140kmもの長い鉄道路線を一挙にバス転換するケースは珍しく、その距離は、道内でJR発足後に相次ぎ廃止された名寄本線、天北線などに匹敵します。その代替バスの運転手確保には、相当の苦労を要するでしょう。
というのも、現在では道内のバス事業者の7割が人員不足で、かつ大型免許保持者の8割が50歳以上という状況です。札幌からの距離を考えると“通い勤務”は困難ですから、一部の人には後志地方へ移住してもらう必要があると考えられます。
山線沿線のバス会社でも、たとえばニセコバスはコロナ以前から経営不振と運転手不足に悩まされ、鉄道との並行区間である黒松内~長万部駅間を2019年に1日1往復まで減便したばかり。苦戦が予想される蘭越駅以南では、早い段階で大型免許を必要としない車両への転換などが図られるかもしれません。
この地方に限りませんが、北海道における冬のバス運行環境は厳しく、鉄道の「駅舎がある」「渋滞がない」「揺れにくい・遅れにくい」といった部分は、鉄道の大きなアドバンテージとなっていました。しかし、バスの走行環境は変わってきています。海際の断崖絶壁を延々と走り、海からの強風が乗り心地にも影響していた余市~小樽間の国道5号は、平成中期ごろから改修が進み、冬場の運行のネックとなっていた余市町・小樽市境のフゴッペ・忍路の新トンネルが開通するなど、大半の区間が内陸経由になりました。
後志道という非常時のバックアップとなるルートも完成したいま、鉄道がバスに転換されることで失われるものを取り返すよりは、共和町・仁木町境の「稲穂峠」の迂回路となる倶知安余市道路(後志道の延伸部)の早期整備など、「少しでも車や転換バスが通りやすいようにしてください」と動くしたたかさがあっても良いのではないでしょうか。
今後の動きとしては、駅構内に調査員を配置しての移動需要の調査が2022年7月中旬の平日3日間に予定され、その結果を踏まえて9~10月に行われる「第15回北海道新幹線並行在来線対策協議会」で中間報告が行われる予定です。沿線自治体による次回の協議会は具体的な転換バスについて方向性を話し合う重要な場所となります。前出の通りバス転換は、新幹線開通をまたず、早ければ2026年度にも行われる見込みです。
【了】
Writer: 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)
香川県出身。鉄道・バス・駅弁など観察対象は多岐にわたり、レンタサイクルなどの二次交通や徒歩で街をまわって交通事情を探る。路線バスで日本縦断経験あり、通算1600系統に乗車、駅弁は2000食強を実食。ご当地料理を家庭に取り入れる「再現料理人」としてテレビ番組で国民的アイドルに料理を提供したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」など。
ありがとうございます。新幹線開業で並行在来線は、これまでのケースならば、とってもふざけたダッサイ会社名の第3セクターでの転換が一般的でしたが、新幹線開業と引き換えに在来線完全廃止は北海道ならではの特有の事情でもありますね。毎回思うのが、新幹線開業を祝う反面、平行在来線を手放す、つまり生活路線を犠牲にしてしまうと言う現実は否めないところであります。