ミステリー? 露陣地に撃ち込まれた米製対レーダーミサイルの謎 誰が? 何から?

撃ち込まれたAGM-88の謎 考えられる「答え」は?

 筆者(月刊PANZER編集部)は、ウクライナ軍のMiG-29にAGM-88を搭載できるよう改造して使用した可能性が高いと見ています。カール次官はウクライナ空軍の戦力増強のため、MiG-29の予備パーツを送っていると述べています。その中にAGM-88を搭載する緊急改造も含まれていたのではないでしょうか。

 AGM-88は通常、電波の発信元位置や種類など目標情報諸元を発射母機からインプットしますが、ミサイル本体に事前に目標情報諸元をインプットするモードもあります。この方法ならば東側製のMiG-29でも、電子機器の積み替えなど大幅な改造をしなくても、より小さな改造だけでAGM-88に対応できそうです。ただし離陸後の目標変更ができない、ミサイル本体のメモリ保持バッテリーには限りがあり長時間行動できない、など、運用には制限が付きます。

 とはいえ疑問点は残ります。高速で飛ぶ戦闘機にとって外部搭載のミサイルは空気抵抗が大きく飛行特性を左右します。MiG-29がAGM-88を搭載した場合の飛行特性の検証と対策を、短期間でどうやって済ませたのかが分かりません。

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ウクライナ空軍のMiG-29。チェコからNATO規格のパーツが供給されているが、AGM-88を運用できるのか確証はない(画像:アメリカ空軍)。

 AGM-88が使用されたという情報は、ロシア軍防空システムを弱体化させるという純軍事的な意味以外に、西側のウクライナ支援姿勢を強調するプロパガンダ戦の側面も見られます。ウクライナは航空機や弾薬などさらなる支援を要求しており、欧米各国の支援も国によってスタンスが違います。情報も恣意的なリークや操作がなされ、出所不明の陰謀論めいたものまで錯綜しています。欧米がウクライナに実際のところどんな支援をしているのか分からないことも多く、今回の対レーダーミサイルの件についても情報源はロシア軍であり、SNSに投稿されるまでアメリカはだんまりでした。

 ウクライナでは「ジャベリン」に始まり、TB-2「バイラクタル」、HIMARS、AGM-88などと「ゲームチェンジャー」とされる兵器が次々と話題に上りますが、その「ゲームチェンジャー」なるものがどんどん「チェンジ」する状態です。これも情報戦の一端であることに注意しなければなりません。

【了】

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Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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