初来日! 108歳の大型帆船「スターツロード・レムクル」の波乱すぎる半生 105歳でバッテリー搭載
オイルショックと海運不況が直撃
アメリカやスウェーデン、そして古巣のドイツなどが取得に興味を示す中、ノルウェー船主のヒルマー・レクステン氏が「スターツロード・レムクル」を購入し、海外への売船を防いだものの、今度はオイルショックと海運不況が直撃、レクステン氏の会社が危機に陥ります。その結果、当初は練習船として運用していた「スターツロード・レムクル」は係留され、ドイツでは買い戻すための資金調達が始まりました。
こうした状況に危機感を感じたベルゲン市では、1976(昭和51)年に「スターツロード・レムクル」をノルウェーに留めるため支援団体が設立され、最終的に1978(昭和53)年に現在の所有者で運営を担う「スターツロード・レムクル財団」に寄贈されることが決まりました。
主機関の交換など大規模な改修を受けた「スターツロード・レムクル」は再び運航を開始し、1990年代には負債も解消しました。2019年にはバッテリーが搭載され、帆走中に充電を行うハイブリッド発電機と合わせて排出ガス、エネルギー消費、騒音を大幅に削減することが可能になっています。
今ではノルウェー海軍兵学校や船舶学校、企業などがチャーターし、北大西洋や北海での航海に使用されており、ドイツ海軍が士官候補生の訓練で使用した実績もあります。加えて、財団も独自に帆船の生活を体験するツアーや船上で食事を楽しむ周遊クルーズを企画しており、一般の人でも気軽に乗ることができる帆船となっています。
2022年9月現在、「スターツロード・レムクル」は、「ワン・オーシャン・エクスペディション」と題して19か月かけて地球を一周する航海を行っています。2021年8月にノルウェーを出港した同船はキューバのハバナやアメリカのニューヨーク、ブラジルのリオデジャネイロなどに寄港しつつ、南アメリカ最南端のホーン岬を回って太平洋側へと移動。2022年8月27日にパラオを出港し、横浜へと向かっています。
横浜港の接岸場所は新港ふ頭客船ターミナル(横浜ハンマーヘッド)。第1次世界大戦から続く波乱万丈な経歴を持つ帆船を、ぜひその目で確認してください。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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