空母くるより恐ろしい? 中国の「測量艦」が領海侵入を繰り返すワケ その“ヤバさ”
中国船が領海侵入してまで調べる意味は?
ただ、そのなかでも、南西諸島の周辺海域というのがポイントです。このエリアは、台湾有事などの際に同海軍が作戦行動を行う海域だからです。単に潜水艦を航行させるだけなら、日本の領海を侵犯する必要はないでしょう。領海侵犯してまで海中を調べているというのは、有事の際に潜水艦をより有効に運用するために、当該海域の正確な「海底の地図」を作り、あわせて海洋情報を収集しておく必要に迫られているからだと考えられます。
また、海底に設置される潜水艦探知のための固定監視システムとして「SOSUS(Sound Surveillance System:ソーサス)というものが、アメリカ海軍にはあります。
これは海中の音を常時捉え続けることで、潜水艦を始めとした艦船の航行を瞬時に捕捉するシステムです。これか、もしくは海上自衛隊の類似システム「水中固定聴音機」が中国潜水艦の動向を把握するために、南西諸島を含む東シナ海へ設置されている可能性が高いといわれています。
実際、2015(平成27)年9月には一部メディアから、沖縄県うるま市の海上自衛隊沖縄海洋観測所沿岸から海中に長く延びる2組のケーブル埋設痕らしき画像が公開されたことがあります。当該海域にアメリカのSOSUSや日本の「水中固定聴音機」が設けられているかどうかは不明であるものの、それらの有無を中国の測量艦が調べていてもおかしくはないでしょう。
ひょっとしたら、領海外からは調査が難しい日本近海に、海底地形を利用した海自潜水艦しか知らない「秘密の待機場所」が設けられている可能性も推察できます。だからこそ、中国海軍は、測量艦による領海侵入を繰り返しているとも考えられます。
こうして見てみると、実は中国測量艦の領海侵入は、実際に戦闘が行われている戦時でもない限り、空母が領海侵入することよりも「恐ろしく危険な事態」といえるのです。筆者(白石 光:戦史研究家)は、こうした中国海軍による性急な海洋調査が、かねてより懸念されている、台湾侵攻の前触れなどではないことを、ひたすら願うばかりです。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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