陸自の多連装ロケット砲「陳腐化」とは? ウクライナの戦線支える「現役」が廃止へ
変化する陸上自衛隊と「スタンド・オフ防衛能力」
M270は、さらに射程の長い短距離弾道ミサイルの「ATACMS」(射程約300km)を装備することが可能で、加えてアメリカ軍では2025年より射程約500kmの「精密打撃ミサイル(PrSM)」の運用も開始される予定です。それを踏まえれば、陸上自衛隊のM270の退役は時期尚早に見えるかもしれません。
ところが、中国が保有する各種巡航ミサイルや弾道ミサイルの射程を踏まえると、そもそも沖縄本島自体も安全とはいえません。よって、さらに離れた場所から攻撃可能な、より射程の長い装備が必要となるわけです。
そこで、将来的に自衛隊が保有を目指しているのが、敵の射程圏外から安全に攻撃を実施できる「スタンド・オフ防衛能力」です。たとえば、九州や本州、さらに北海道から尖閣諸島を射程に収めるミサイルを装備することができれば、敵から攻撃を受けるおそれがない状態で安全に攻撃を実施することができます。
先述した「防衛力整備計画」によると、このスタンド・オフ防衛能力を担う装備として、今後「12式地対艦誘導弾能力向上型」「島嶼防衛用高速滑空弾(早期装備型・能力向上型)」「極超音速誘導弾」を陸上自衛隊に配備し、そのための部隊も新編することとなっています。これらはいずれも約1000kmを超える射程を持つと目されており、今後の開発次第では3000kmを超える射程を有するものまで登場することも想定されます。
冷戦時代のように、広大な土地が広がる北海道にロシア軍が上陸してくることを想定するとなれば、M270の意義は決して小さなものではなかったでしょう。ところが、今後想定される状況は、海に隔てられた島をいかに防衛するかというものであり、そこではM270は能力不足と考えられます。「陳腐化」という表現は、主にそうした背景によるものだと筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。そこで、今後はこうした装備を退役させ、これまでそうした装備の運用に充てられていた人員を別の部隊に回すことで、より効率的な体制の構築を図っていくというわけです。
ウクライナと日本とでは直面している状況や環境が異なる以上、ある兵器がウクライナで活用されているからといって、単純にそれを日本に当てはめることはできないのです。
【了】
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。
退役させるなら、逆に尖閣にすべて配備し針の山にしてはどうか?運用する部隊の問題もあり、絵空事ではあるが、検討するだけでも抑止とならんだろうか?