老舗バス会社がなぜ“ネット企業”目指す? 「旅行版レシピ投稿サイト」開発 脱・昭和の旅行
老舗バス会社の札幌観光バスが「たびポス」というウェブサービスを始めました。いわばレシピ投稿サイトの旅行版。畑違いの事業に進出する背景には、バス業界の危機と、昭和からあまり変わっていない旅行のあり方という課題が存在します。
思うように変わらない旅行市場 貸切バスは危機に
そこにコロナ禍が追い打ちをかけました。同社の福村泰司社長によると、道内の貸切バスの需要は、コロナ前の7割程度までしか回復していないということです。札幌観光バスのようなブランド事業者でも、従来の市場がさらに縮小することを覚悟しないといけないのです。
観光産業では、2000年頃から、変革のビジョンを描き続けてきました。従来の「物見遊山」的なツアーから、テーマ性の大きい旅行へ。文化財的価値のある工場などを対象とする「産業観光」、農村に滞在し農作業体験や豊かな食を楽しむ「農泊」など、唱えられたキーワードは枚挙に暇がありません。
ツアーの形態は、「発地型から着地型へ」の変化が謳われました。大都市の旅行会社が企画する従来型のツアーは、有名観光地を総花的に回る凡庸なものになりがちです。しかし、地元を愛する目的地(着地)側の旅行会社なら、地元の人しか知らないような体験を組み込んだツアーを企画することができます。現地参加型とすることで、各地から集まった旅行者を対象に、テーマ別に多数のツアーを同時に設定することもできると言われました。
それらを、ウェブの普及が後押しするとされました。ウェブ上で得られる情報は多く、旅行者自身が、それぞれの関心に基づく旅程を組み予約するだろうとされました。往復の足と宿泊、現地のアクティビティを旅行者自身がウェブ上で組み合わせ、一括で予約、決済するダイナミック・パッケージが普及すると考えられました。
しかし、日本人の旅行のスタイルが、当時の見込み通りに、抜本的に変わったとまではいえません。グルメなりスポーツなり、好きなアニメの「聖地巡り」なり、旅行者自身が本当に関心のあるテーマで自由に旅行を楽しむには何が不足しているのか、という疑問が「たびポス」開発のきっかけになりました。
旅好きな人やバス・鉄道の愛好家らは、複雑な時刻表を読み解いて自由に旅を楽しんでいます。しかし、ごく一般的な旅行者にとっては、どこにいい温泉があるとか、地点間のおおよその所要時間、といった知識をあまり持っていません。経路検索サービスが示してくれるのは、効率のいい乗換ルートであって、最も楽しめるコースではありません。「1日目はどこを回って、どの宿に泊まろう。2日目は…」といった「旅のあらすじ」を書くことが難しいのです。
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