“中国スパイ気球” 撃墜ミサイルの生まれ故郷「チャイナ・レイク」とは トップガンの舞台にも

関東地方がすっぽり入る広大なテストエリア

 筆者(細谷泰正:航空評論家/元AOPA JAPAN理事)が同基地を訪れた1980年代にはまだ標的機としてQF-86が飛んでいました。同機は航空自衛隊で使用されていたF-86F「セイバー」戦闘機がアメリカへ返還された際に、標的機として改造が施されたものです。そのため、妙に懐かしい気分になったのを覚えています。

 ほかにもF-4「ファントムII」戦闘機やT-38「タロン」練習機が標的機へと改造されて使用されていました。それらはさすがに退役が進み、2023年現在ではF-16「ファイティングファルコン」シリーズの初期型F-16A戦闘機が標的機に改造されQF-16Aとして運用されています。

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1980年代、チャイナ・レイク基地で運用されていたT-39D「セイバーライナー」(細谷泰正撮影)。

 チャイナ・レイクでは、これら航空機を使って戦闘機や攻撃機などが搭載する爆弾、空対空ミサイル、空対地ミサイルなどの試験を行っています。なかには敵のレーダーサイトなどを破壊するためのAGM-45「シュライク」空対地ミサイルや、空中発射型の「トマホーク」巡航ミサイルなどもあり、まさに多岐にのぼっています。

 なぜ、チャイナ・レイクでこうした実弾を使った試験を行えるのか。その理由は、基地の周りに広大な土地と空域が広がっているからです。アメリカ海軍はチャイナ・レイク航空基地とその周囲に4500平方キロメートルに及ぶ広大な土地を所有しています。これは、山梨県の面積にほぼ匹敵します。さらにその上空にはR2508とよばれる制限空域が設定されていて民間航空機の飛行が制限されています。

 なお、このR2508は近くにあるデスバレー国立公園とキングス・キャニオン・アンド・セコイア国立公園の上空も含まれるため、制限空域の広さはさらに大きく、その総面積は関東地方(1都6県)のおよそ1.5倍の広さに匹敵する5万1000平方キロメートルにも達します(中国・四国地方9県とほぼ同等)。そのため、R2508は15の区画に分割され、それぞれ異なった高度制限を設定することで、各種ミサイルの試射など兵器の性能テストが行われています。

 では、そもそもなぜここがチャイナ・レイクと呼ばれているのでしょうか。その由来は1900年代初頭、中国人探鉱家たちが乾湖の湖底で硼石(ホウ砂)を採取していたからだそう。

 冒頭に記したように中国の偵察気球、すなわち「チャイナ・バルーン」を撃ち落としたのは、チャイナ・レイクで誕生した「サイドワインダー」空対空ミサイルでした。ゆえに、筆者としては今回の出来事に何か歴史的な因縁を感じてしまいました。

【了】

【写真】元航空自衛隊機を転用 QF-86「セイバー」標的機ほか

Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)

航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事

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