「世界初の水素旅客機」ソ連に実在!? 大ヒット機を魔改造した30年以上前の“代替燃料機”とは
Tu-155試験機、原型機からどこを改造?
Tu-155試験機は、Tu-154を製造していたアビアコア社で改造作業が実施されました。尾部右側にあるエンジンを、通常型のクズネツオフ設計局製NK-8-2から、水素ガスタービン・エンジンNK-88に換装。胴体後部半分に冷却装置も含めた広大な燃料タンクを装備しました。なお、水素燃料の使用時間は約2時間だったそうです。
その後、Tu-155は、1988年4月15日初飛行。このときには、エンジン3基のうち1基を水素燃料、2基を通常のジェット燃料駆動のもので離陸しています。また、翌年に同機は、エンジンをLNG(液化天然ガス)で駆動するものに交換し、100回近くの飛行試験を実施。これらの試験で14の世界記録を樹立しました。なお、先述の水素エンジンを一部に組み込んだ状態での飛行試験は、5回実施されたと記録されています。
なおこのプロジェクトで水素が燃料として用いられたのは、環境への影響が低いことなどから、当時より次世代の航空燃料として注目を集めていたため。一方でLNGが燃料として用いられたのは、化石由来であるジェット燃料よりも、遥かに埋蔵量が豊富であるゆえに値段が安価になると見込まれていたこと、有害物質の排出量の減少が期待できることなどが挙げられます。
ちなみにツポレフ設計局では、その後、Tu-156というLNGエンジン機も計画されたものの、ソ連の崩壊もあり実機の飛行には至りませんでした。
そんなTu-155試験機、現在でもジューコフスキー近郊のラメンスコイ飛行場に収蔵されており、ロシアの航空ショーなどで一般公開されているそうです。
【了】
Writer: 種山雅夫(元航空科学博物館展示部長 学芸員)
成田空港隣の航空科学博物館元学芸員。日本初の「航空関係専門学芸員」として同館の開設準備を主導したほか、「アンリ・ファルマン複葉機」の制作も参加。同館の設立財団理事長が開講した日本大学 航空宇宙工学科卒で、航空ジャーナリスト協会の在籍歴もある。
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