大失敗! 戦艦の「2段重ね砲塔」が机上の空論だったワケ アメリカだけが懲りなかった

懲りずに6年後、再チャレンジ

 主砲と中間砲の装填速度の違いを利用して、主砲の装填中に中間砲を別の目標に向けて撃つことは、せわしなさすぎて結局行えませんでした。また、当時は操砲作業の多くの部分を人力に頼っていたので、主砲と中間砲それぞれの発砲時の爆風と衝撃が、両砲の砲員に対して互いに悪影響を及ぼし、作業効率の低下も招きました。

 実は他国の海軍でも、過去にこのような2段重ね砲塔が検討されましたが、いずれも実用上の問題が多すぎるとして実際には造られませんでした。アメリカ海軍だけが形にしたのです。他国の海軍関係者らはアメリカの失敗を見て、自分たちの判断が間違いではなかったことを、改めて検証した結果になりました。

Large 230531 kearsarge 03

拡大画像

アメリカ戦艦「キアサージ」(画像:アメリカ海軍)。

 しかし、当のアメリカ海軍は懲りませんでした。キアサージ級の就役から6年後に誕生したバージニア級戦艦で、再び2段式砲塔を一部の艦に装備して実験したのです。当然ながらその結果は、キアサージ級と同じく実用性に乏しいものでした。

 こうして、砲塔の2段重ねは実用上、大きな問題があることが明確となり、以降、採用されることなく姿を消しました。

 ちなみに、このバージニア級の就役と同じ年、イギリスでは副砲や中間砲の多くを廃止して主砲の口径を統一し、火力を大きく向上させた戦艦「ドレッドノート」が就役しています。

「ドレッドノート」の登場で、さまざまな口径(射程)の火砲を取りそろえた戦艦は一挙に旧式化したため、以後は砲塔を2段重ねにする必要がなくなったともいえるでしょう。

【了】

【懲りずに再建造!】2段重ね砲塔を再び載せた戦艦「ヴァージニア」&「キアサージ」の断面図も

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。