「ズル」との戦いの歴史? 鉄道きっぷの「自動券売機」日本第1号は明治か 「機械が正しい」思い込みと落とし穴
「券売機が正しいに決まってるだろ」の時代へ
その後券売機は、戦時下の金属回収で撤去され、駅から姿を消します。戦後、1952(昭和26)年に東京駅で入場券販売機が復活。やがてレバー式から電気式に発展し、1962(昭和36)年に高見澤電機製作所(現・高見沢サイバネティックス)が現在の「発券のたびにロール紙に印字する」という世界初の多機能自動券売機を開発するに至ります。
最後に人間と券売機の関係を示す面白い逸話を紹介します。1963(昭和38)年9月9日付読売新聞都内版の「自動販売機に負ける 人間さまは信用されない」と題した記事は、お釣りが間違っていると申し出た少年が「機械は正確」と取り合ってもらえなかったという投書から始まります。
鉄道のみならず飲料、弁当、タバコと自動販売機が急速に普及した時代。機械の精度向上で、機械の故障より人間の思い違いが明らかに多いとして、「機械の判定を優先する」という時代の変化を伝える内容です。
一方、これとは逆のエピソードも。1968(昭和43)年9月10日付読売新聞は「ニセ百円玉 自動券売機に出回る」として、営団地下鉄の銀座駅など5駅で8月5日以降、ハンダを鋳型に流し込んで作った「100円玉」を使った釣銭詐欺が頻発していると報じています。
記事によれば、国鉄の券売機は材質が異なる偽物を見破る不正対策が導入されていましたが、営団では対応が遅れていたため、犯人に狙われたという事です。この偽物は裏面か表面の「片面しかない」シロモノのため人間の駅員には通じませんが、機械は「信用」してしまうのです。
様々な偽札対策が講じられた現代でも、機械の判定の穴をついた偽札が新たに出回ることはしばしばあります。自動販売機がある限り人間との戦いは終わらないのでしょう。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
コメント