青函トンネルで新幹線が「スロー走行」のワケ これでも速くなった?「フルスピード化」の効果と“壁”

どうやってスピードアップ実現? 大胆な将来計画も

 とはいえ、青函トンネル内の最高速度がいつまでも在来線並みのままでは、新幹線での東京~札幌間の所要時間は5時間近くかかってしまいます。これでは航空機からの大幅な利用者シフトは見込めません。航空機と対抗するため、青函トンネル以外の区間とあわせて速度を引き上げ、東京~札幌間を4時間半程度で結びたいというのが国の目標です。

 関係者の間で協議が進められ、まず、2019年3月から最高速度が160km/hに引き上げられました。これはほくほく線やスカイアクセス線と同じで在来線の最高速度です。検討の結果、これなら貨物列車とすれ違う際の風圧リスクも問題ないとされました。これにより青函トンネル内の所要時間はおよそ3分短縮されました。

 さらにスピードアップするための協議が続き、風圧リスクや貨物列車に追いついてしまうといった問題を回避するため、「新幹線と貨物列車の走行時間帯を分ける」ことに落ち着きました。

 現場では2019年9月から10月にかけ、200~260km/hの速度帯での走行試験が行われ、その中から当面は期間を指定して210km/hで運行することが決まりました。この取り組みは2020年度の年末年始の期間に始まり、以来、ゴールデンウィーク、お盆休みなどの多客期に実施されてきました。

 これらのシーズンは旅客需要が大きい一方で、「貨物需要が通常期よりも少ない」という特徴があります。つまり、貨物列車の運行を減らしてもその影響はあまり大きくないのです。運行実績は着々と積み重ねられており、最終的に260km/hへのスピードアップを目指します。実現すると、時間短縮は現在より約4分、開業当初の140km/hで走行していた時期と比較すると約10分に及びます。

 さらに、「始発から15時半頃まで」に制限されていた高速新幹線の走行時間帯の拡大についても検討を進めるとしています。

 くわえて、「青函トンネルを新幹線と貨物列車が共用している」ことによる限界を打破するため、より抜本的な検討も進められています。JR貨物は2021年1月に策定した長期ビジョンで「貨物新幹線」の導入を示唆し、その後イメージ図を公表しています。また、ゼネコンや鉄鋼メーカーなどで作る日本プロジェクト産業協議会は、現在の青函トンネルに加えてもう1本、新たな海底トンネルを掘る「津軽海峡トンネルプロジェクト」を打ち出しています。

 とはいえ前者は技術的に前例のない取り組みですし、後者は巨額の建設費用がかかるのは間違いありません。その実現は容易ではなさそうです。

【了】

【写真】えっ…これが「青函トンネルにあるケーブルカー」です

Writer: 土方 揚(経済ジャーナリスト)

1963年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。 出版社に入社し経済誌や投資情報誌で編集・記者を長年務める。 幅広い産業の取材や海外駐在経験を元に できるだけ広い視野に立って記事を書くことを心がけている。

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