犬に“特攻”をさせた「地雷犬」の悲劇 “戦車を破壊してこい” その愚かな顛末

独ソ戦序盤、対戦車用の兵器不足に悩まされソ連軍は、通常ではあり得ない戦法で攻撃しようとします。それは犬を動く爆弾にするという非情なものでした。

なにも知らない犬を自爆兵器に…

 1941年6月22日、ナチス・ドイツを中心とする枢軸国軍は、突如としてソビエト連邦の勢力圏内になだれ込み、独ソ戦が開始されました。

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モスクワの赤の広場でパレードする犬の調教師であるハンドラーと軍用犬(画像:パブリックドメイン)。

 完全に不意を突かれた形となったソ連軍は、開戦序盤で大量の戦車などの装甲部隊や重砲を失い、対戦車戦力の欠乏に悩まされます。そのギャップを埋めるべく、ある意味、人間を使うよりも非人道的な“兵器”が投入されることになります。「地雷犬」または「爆弾犬」とも呼ばれる犬を使った対戦車兵器です。

 犬は軍用犬として、現在でも世界の軍で様々な任務に参加していますが、自爆させる目的で使用されたケースは、他に類を見ません。

 この「地雷犬」は独ソ戦のために立案された兵器と思われがちですが、実は1930年代からソ連では研究されていました。方法は、木製レバーの起爆装置をつけたTNT火薬を犬の背中に背負わせ、犬が戦車の下に潜り込んだところで起爆レバーが倒れ、敵戦車を破壊するという仕組みでした。もちろん犬の脱出は考慮されていません。犬一匹を犠牲に戦車を破壊するというものでした。

 使用される犬には、練習用の戦車の下に肉片を置き、すべての戦車の下に食べ物があると犬に刷り込ませ、さらに餌を与える際は大きな音を出すなどし、銃火器を恐れないようにも教え込まれました。ただ、日本の特攻機のパイロットのように、突入したらどうなるかはもちろん教えていませんし、教えようがありません。

 この地雷犬が実戦に初投入されたのは、1941年10月2日から始まったモスクワ近郊での戦いからだったといわれていますが、緒戦は散々なものだったと伝えられています。

 実は犬の訓練に重大な問題があったのです、当時、ソ連戦車の燃料はディーゼルを使っていましたが、ドイツ戦車はガソリンを使用していました。そのため、微妙な匂いに困惑した犬たちは、ドイツ戦車の下には潜らず、一説には逆にソ連車両に潜り込んで破壊してしまったといもいわれ、作戦は失敗しました。

 その後は、ガソリンの匂いを覚えさせるなど訓練方法を変更し、レニングラード方面の攻防戦に使用されます。ここでは、戦車やトーチカを破壊したといわれています。しかし、銃火器を恐れないと判断したドイツ軍は火炎放射で追い返し、逃げた犬がそのままソ連陣地で自爆してしまうという問題も起きたようです。

 結局ドイツとソ連の守勢と攻勢が入れ替わる1943年半ば頃には、対戦車兵器が潤沢に供給されるようになり、残った犬は地雷検知犬として再訓練され、その多くは終戦まで生き延びたと言われます。

【了】

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