JR東もテスト「貨物新幹線」誕生間近? 60年前から“やる気”だったはず 歴史を変えるか?
貨物輸送をうたっていた東海道新幹線の建設
とはいえ、新幹線を運行するJR各社が荷物輸送に精を出すと、JR貨物の領域を侵すことにつながるような可能性はあったりするのでしょうか。
そもそも新幹線による貨物輸送計画は、東海道新幹線の建設時、その資金の一部を世界銀行から借り入れるために役立ちました。しかし、夜間に線路保守を行う必要から東海道新幹線の線路上を貨物列車が走ることはなく、国鉄は1987(昭和62)年に解体されます。
国営鉄道の民営化を実行した多くの国々では、鉄道事業を線路の維持と列車の運行に分ける上下分離方式が採用されています。同様のケースは日本でも全国各地で見受けられますが、さらに日本では路線網の分割だけでなく、旅客と貨物の分離を組み合わせた方法も採用されました。
その時、建設コストが高く同時に資産価値も高い新幹線だけは新幹線鉄道保有機構(以下保有機構)が保有し、JR東海、JR 東日本、JR西日本(いわゆるJR本州3社)の各社は設備を借りて新幹線を走らせることになりました。これは事実上の上下分離状態といえますが、当時の鉄道事業法では第三種鉄道事業に当たらないとされていました。
一方、新幹線の貨物輸送については議論されることなく、1991年10月に新幹線鉄道施設はJR本州3社に譲渡され同機構は解体された経緯があります。
当時を振り返ってみると、保有機構が受け取った新幹線使用料は整備新幹線の建設資金などに活用され、並行在来線の存続も問題になることはありませんでした。ところが、株価が史上最高値を付けた1989年、政府はJR3社の株式上場を急いだのです。株式市場での上場を後押しするために、国民の資産でもあった新幹線は民間会社である本州JR3社の持ち物とすることが決まったのです。
北海道新幹線の延伸に伴う並行在来線の存続問題が議論されている今、本格化の兆しが見えてきた新幹線の荷物輸送が、JR各社のあり方を見直すきっかけになるのではと筆者は考えています。
【了】
Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)
航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事
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