宇都宮LRTなぜ「全区間が路面電車」で開業? 郊外を爆走できぬ“制約”あえて選んだ理由と「爆走の野望」とは
二重の認可法律の「壁」
いわゆる鉄道は「軌道」と「鉄道」の二つに分類でき、法律的な位置づけも異なっています。簡単にまとめると、鉄道は自動車や人が立ち入れない専用軌道を走行するため、信号保安装置のもと大型車両で高速運転が可能です。一方、軌道は原則として道路上(併用軌道)を走りますが、路面を自動車や歩行者と共有するため安全上、最高速度は40km/hに制限されており、運転士の目視に頼って運転します。
これを組み合わせている例が日本にあります。広島電鉄2号線系統は、鉄道である「宮島線」と軌道である「市内線」を直通運転しており、宮島線内では最高速度60km/h運転が行われています。また福井鉄道福武線も鉄道区間と軌道区間から成り立っており、鉄道区間では最高速度65km/hの急行運転が行われています。
路面電車の枠に収まらない本格的な快速運転を行うのであれば、ライトラインも「鉄道と軌道」の組み合わせで整備するという考え方はなかったのでしょうか。
宇都宮市の東西交通整備構想は1980年代後半に浮上し、当初は「モノレール」や「ガイドウェイバス」も検討対象に含まれていましたが、2000年代に入ってLRTとしての整備方針が固まりました。宇都宮市に聞くと、その当初から全区間を軌道法にて整備する方針だったと言います。
というのも、法律上異なる鉄道と軌道を一体的に運用するのには、いくつかのハードルがあるからです。最大の問題は「運転免許」です。鉄道の運転免許は「動力車操縦者免許」といいますが、自動車でも大型免許、中型免許、特殊免許などと分かれているように、鉄道もさらに細かく分類されています。
分類は蒸気機関車、内燃車(ディーゼル車等)、電気車といった仕組みの違いに加え、専用軌道を走る「甲種」と、併用軌道を走る「乙種」があります。つまり軌道と鉄道を直通する路線の運転士は甲種電気車運転免許と乙種電気車運転免許の両方を取得していなければならないのです。
広島電鉄によれば、同社の養成所の講習課程は乙種電気車運転免許の取得を目的としており、甲種電気車運転免許は乙種免許を取得した運転士が中国運輸局で動力車操縦者試験を受験して取得しているため、宮島線直通の運転士と軌道線専任運転士は所属の営業課が異なるそうです。
規模の小さい福井鉄道では、要員養成はさらに大変だといいます。中途採用の社員は多くが甲種免許を取得しているそうですが、乙種免許を取得しなければ乗務ができません。ところが動力車操縦者試験は年2回で、実際に乗務につくには長い時間がかかるため要員確保は容易ではないと話します。
歴史的経緯から鉄道と軌道が直通することになってしまった路線は仕方ないとしても、新たに整備する路線が、わざわざややこしい方式をとる必要はないということでしょう。
鉄道と軌道の組み合わせにおいては、LRT事業の先駆けとなる、富山地方鉄道富山港線(旧富山ライトレール)も忘れてはならないですね。