鉄道会社が欲しいのは「鉄道職」じゃない!? 広がる「カムバック採用」で「期待される人材」とは
これから鉄道会社が「確保したい」人材とは
将来的には少子化の影響で、現在と同水準の量と質を保った採用は困難になると予想されます。一方で「業務の省力化」も進むことから、まだ何とも言えないところ。採用する職種は総合職(事務系、技術系)、エキスパート職(運輸部門、技術部門、事務職)と広範で、ボリューム的にはエキスパート職がメインになると想定されますが、とりあえず現時点では人手が足りないということではないようです。
同社は今後も新卒採用、社会人採用(中途採用)を基本としつつ、人材の多様化による組織の活性化、即戦力となる人材の確保を図るために、「社外での経験を社内に還元していただける方、即戦力として過去の在籍時に身につけたスキルを活かして活躍していただける方」も採用していくと説明します。
そうなると会社として期待するのは経営の中心となる「総合職」の確保でしょう。実際、採用ホームページを見ると、「総合職デジタル系」の応募に必要な実務経験の事例として「プログラミング言語を用いたデータ処理やモデル開発」「ノーコード/ローコードを含めたアプリ開発」「その他デジタル技術を活用した研究等」などを挙げています。
背景には鉄道事業者の経営環境の変化があります。これまでの事業の中心である鉄道事業は、コロナ禍以降の利用減少や将来的な人口減少などで相対的な地位が下がっていきます。今後はITやデジタルなど新たな技術を組み合わせることで「サービスの質的向上」や「新たな収益源の開拓」を進める必要がありますが、こうした人材を社内で育成するのは時間がかかるので、在籍経験のある人材を採用できるなら大歓迎です。
ただ懸念もあります。東京メトロの総合職は離職率が低いですが、筆者の経験上、離職者は「夢を追ってキャリアアップする人間」と、「会社が肌に合わず離れていく人間」に二分されます(筆者はもちろん後者です)。そうなると夢を叶えた人、会社に合わなかった人のどちらも戻って来ないかもしれません。
制度の成否は、単に採用者が出るだけでなく、こうした領域に貢献できる総合職を呼び戻せるかどうかにかかっているでしょう。そんな人に取材できる日を楽しみにしています。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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