120年の歴史に幕 「横須賀」の新造船ヤード撤退の“意味” 「石油タンカーに特化」もうそんな時代じゃない?
広~いヤードはまだまだ活用 新ステージへ
かつて31万重量トン型VLCC(大型原油タンカー)を建造した三井E&S造船の千葉工場も2021年3月で造船事業から完全に撤退しており、住友横須賀が新造船から手を引くと、東京湾内で大型商船が建造できるヤードはJMU(ジャパンマリンユナイテッド)横浜事業所磯子工場だけとなります。
横須賀造船所の今後について住友重機械工業の下村真司社長は「ドックの一部は既に修理船で使用している。また、これから洋上風力発電をやっていく中で、浮体式構造物を建造する上でドックが非常に重要になってくると考えている」と話します。
住友重機械マリンエンジニアリングは、東京湾近海の官公庁船と在日米軍向けの艦船修理に注力しており、アメリカ海軍の原子力空母からアメリカ陸軍の揚陸艇まで、幅広い船種で修理・改造サービスを提供しています。若干ではあるものの、商船の修繕も行っており、長さ580m、幅80mの大型ドックを活用し、大型船入渠工事や中小型船の同時入渠工事も可能。大型のゴライアスクレーンを使っての吊り入渠ができるのも特長の一つです。修理船事業は継続するため、東京湾内の修繕拠点はこれまで通り維持できる見通しです。
もう一つは、脱炭素エネルギー領域として展開していく洋上風力用構造物や関連船舶、風力推進コンポーネントの製造です。浮体式洋上風発の中でも、例えばバージ型は造船所のドックで製造し、そのまま海へ引っ張り出すことができるというメリットを持っています。
「我々のドックは、非常に幅が広いこともあって、対応できる浮体式構造物も多い。ドックを有効活用しながら脱炭素エネルギーの分野に今後向けて活用していきたい」(下村社長)
新造船事業撤退に伴って空いた場所は、グループの住友建機が大型油圧ショベルの新工場を建設し、これまでの千葉製造所を中・小型のショベルの生産に特化させて油圧ショベルの増産に対応する方針です。また、港湾クレーンのような大型クレーンの製造も横須賀製造所で行っていきます。
横須賀造船所を象徴する巨大なゴライアスクレーンの下で新しい船が建造され、最終船が引き渡されるまで2年を切りました。横須賀における大型商船建造の歴史が幕を下ろそうとしています。
【了】
Writer: 深水千翔(海事ライター)
1988年生まれ。大学卒業後、防衛専門紙を経て日本海事新聞社の記者として造船所や舶用メーカー、防衛関連の取材を担当。現在はフリーランスの記者として活動中。
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