「オービスをぶっ壊せ」国民の怒り爆発!? “プライバシーより取締り”の顛末とは 恐怖のオービスお国事情
スーパーカーの国ならではの苦悩
イタリアは、黄色の背景に黒の跳ね馬(はねうま)のエンブレムと、真紅のボディがアイコン化しているF1の象徴フェラーリや、全高が低くて地を這うように走るイメージが定着しているランボルギーニなど、フルスロットルでぶっ飛ばしたくなるスーパーカーのメーカーを多く抱えています。
そんな速度自慢の国民性からか、イタリアの交通事故死者数は、2010年の4114人から減少傾向ではありますが、2022年も未だに3159人と、コロナ禍の間を除いて3000人をなかなか下回れていません(欧州委員会による)。
このため、政府は欧州大陸で最も多い1万1000台のオービスを国内に設置していますが(BBCによる)、これらのオービスが国民のプライバシーを侵害している、ということなのです。
最近では、覆面姿でオービスを壊して回る謎の人物まで出現し、立派な犯罪行為にもかかわらず、オービスの多さに怒りを覚えている人々の間で熱狂的な支持を得ているほどの社会問題になっています。
こうした国民の怒りを少しでも抑える措置として、プライバシー保護の観点から写真の送付は廃止されることになりました。
では、イタリアのフェラーリと同じく跳ね馬のエンブレムで高い人気を誇るポルシェを有すドイツではどうでしょうか。2013年にはイタリアと同着で交通事故死者数のワーストを記録し(欧州連合の統計局ユーロスタットによる)、一部の高速道路では速度規制そのものがないなど、同じくアクセルを踏み込む文化圏です。
ドイツでは原則的に、助手席などの同乗者はきれいさっぱりと消し去られた状態に画像編集された写真が自宅に届くのです。そこには、たった一人でドライブを楽しんでいるようにしか見えない運転手の姿が写っているのみで、助手席はあたかも空席のように見えるように「仕事」が施されています。
ただ、助手席が配偶者の場合も、きれいさっぱり消した状態で写真が届きます。一度でもその状態のオービス写真を受け取ったことがある家庭では、助手席に誰も乗っていない写真が次に送られて来たとしても、場所と時間次第では心穏やかには見過ごせないのではないでしょうか。
オービス一つ取ってもお国柄が出ますが、やはり写真の取り扱いに限っては、「日本式」が一番穏便な方法だと思われます。
【了】
Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)
アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。
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