リニアの開業予定「2034年以降」に、その根拠は? 計画遅れ明白でも「2027年」をなかなか変えなかったワケ
新たな開業目標「2034年」の根拠は?
各種調査をもとに国土交通省の交通政策審議会で審議が行われ、「東京・大阪間の営業主体及び建設主体としてJR東海を指名することが適当である」との答申が2011年5月12日に出されると、同26日に整備計画が決定し、建設の指示がなされました。
さてここからが本番です。環境影響評価法に基づく環境アセスメントを経て作成されるのが「工事実施計画」です。これは全幹法の第9条に「建設主体は(略)整備計画に基づいて、路線名、工事の区間、工事方法その他国土交通省令で定める事項を記載した建設線の工事実施計画を作成し、国土交通大臣の認可を受けなければならない」と定められているものですが、一般的な鉄道に適用される鉄道事業法にも同様の規定があります。
工事実施計画は路線名、工事の区間、線路の位置など基本的なところから、工事方法、工事予算、そして「工事の着手及び完了の予定時期」など計9項目あります。工事計画はさらに、線路の最小曲線半径や最急勾配、停車場の有効長などの土木関係、変電所や通信設備、列車の制御方式など電気関係、車両関係など最大17項目から構成されています。
ただ、これらは一気に申請する必要はありません。JR東海は2014年8月に「中央新幹線品川・名古屋間工事実施計画(その1)」を申請していますが、工事方法については9項目にとどまっています。なお、ここで工事完了予定時期として「2027年」が明記されました。
続いて2017年9月に「(その2)」として、工事方法について電力設備や信号通信設備等の電気設備を中心とした申請、土木工事の一部項目の変更申請を行いました。この時点では静岡県との協議が本格化したタイミングなので、「工事の着手及び完了の予定時期」は2027年のまま変更されていません。
そして2023年12月に行われた最後の申請が、停車場設備や車両基地、車両概要などからなる「(その3)」です。すでに計画の遅延が明白なタイミングで行われた申請なので、「工事の着手及び完了の予定時期」を2027年とするわけにはいかず、しかし見通しも立たないので「2027年以降」という苦肉の表現になりました。
「2034年」が登場するのは、2024年3月29日に開かれた「第2回リニア中央新幹線静岡工区モニタリング会議」の場です。工事中の環境対策を確認するこの会議では、工事のスケジュールも重要な要素です。
JR東海は会議に提出した静岡工区の事業計画で、2017年の工事契約締結から着手できないまま6年4か月が経過しているとして、約10年と見込む工期を踏まえると2027年の開業は不可能との見解を示しました。そのため「最短でも2034年」という数字が導かれたわけです。しかし、着工時期や期間の保証もないため、正式な開業見通しではありません。
【了】
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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