スエズ・パナマ運河のトラブルで注目! 日欧の意外な近道「北西航路」とは まさに温暖化の“棚ぼた” しかしここにも紛争が
「同盟国同士の紛争は得策でない」となったが…
北極海が通年航行できるようになると、沿岸国は周辺海域の管轄権を国際的に表明し、権益を確保しなければなりません。
「マンハッタン」の件以降、カナダ国内では「北極諸島の周辺海域を自国領にすべき」との声が急激に高まります。
ついに1970年、同国は領海幅を3カイリ(約5.6km)から12カイリ(約22.2km)へと拡大、同時に北極諸島の周囲100カイリ(約185km)以内の海域を「汚染防止海域」に設定。通過する船舶はカナダ政府の許可と、同国の砕氷船の随行を必須とし、違反者は取り締まると宣言しました。
当然アメリカは反発します。「航行の自由」を国是に掲げ、世界中の海に艦隊を展開できるお国柄だけに、自由な海域が狭まることには敏感です。
1985年、アメリカは対抗するように、沿岸警備隊の大型砕氷船「ポーラ・シー」を、カナダ側の通航許可を求めることなく、同海峡に出動させました。
対するカナダは仕方なく、アメリカに一方的に許可を与え、自国の砕氷船を随伴させて、体裁だけは取り繕ったようです。
この“事件”を踏まえ、カナダは1986年、北極諸島の外周に領海を決める基準線として国際的に認められている「直線基線」を引き、その内側にパリー海峡を包み込み、自国領土とほぼ同じ権限を行使できる「内水」だと宣言します。
内水は「領海」よりもさらにその国の法律や管轄権が及ぶ海域で、領海において認められる「無害通航権」(沿岸国に脅威・被害を与えなければ、その海域はどの国の船舶でも航行できる権利)も及びません。
もちろんアメリカはそれに猛反対します。パリー海峡は国際法で定める国際海峡(公海同士を結ぶ海峡で、近くに代替可能な海域がないなどが条件)に相当し、潜水艦の潜行や航空機の上空飛行が認められる「通過通航権」が保証される、と訴えました。
ただし、同盟国同士の紛争は得策でないとして、1980年代後半に両国は「北極における協力」を締結。同海峡の主権については、一時棚上げにし、アメリカ籍船舶の航行の際は、カナダの許可をもらい、同国の砕氷船も同行すると決めました。
しかし、近い将来、「北西」の海氷・流氷が通年にわたり完全消失した場合、そもそもカナダの砕氷船が随伴する合理的な理由もなくなります。
この時、カナダはいかなる手段で、管轄権を暗にアピールするのでしょうか。
【了】
Writer: 深川孝行
1962年、東京生まれ。法政大学文学部地理学科卒業後、ビジネス雑誌などの各編集長を経てフリージャーナリストに。物流、電機・通信、防衛、旅行、ホテル、テーマパーク業界を得意とする。著書(共著含む)多数。日本大学で非常勤講師(国際法)の経験もある。
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