「そんなに速さを求めなくても…」なんてあり得ない!! タイパ重視の源流「超スピード時代」の鉄道 歴史は繰り返す

短時間でより高い効果や満足度を得る「タイムパフォーマンス(タイパ)」が注目を浴びていますが、乗りものの「タイパ重視」は100年近く前に始まり、現在まで連綿と続いています。その源流にあった当時の流行語「スピード時代」とは。

とにかく早く、パフォーマンス良くが求められた「90年前」

 最近「タイムパフォーマンス(タイパ)」という言葉が注目されています。「短い時間でどれだけ効果・満足度を得られるか」という意味で、要は同じことは早く済ませるほうが効果的、という価値観です。

 これは動画配信サービスや書籍の要約サービス、AIの活用などのデジタル技術の発達を背景としたものですが、物事のスピードを重視するのは現代の若者に始まった話ではありません。例えば科学技術が急速に発達した昭和初期にも「スピード時代」という流行語がありました。

Large 240325 speed 01

拡大画像

1936年、京阪神に導入されたモハ52形電車(枝久保達也撮影)。

 懐中時計や腕時計が広く普及したこの頃、人々の生活は時間に縛られるようになります。サービス業や近代的な工場が発達し、始業時間にあわせて従業員が一斉に出社する勤務形態が一般化。出社したらタイムカードを打刻し、基準作業量と労働時間で業務を管理する「科学的管理法」が広く取り入れられました。そんな時代になれば、「タイパ」が重要になるのは当然です。

 1930年代の雑誌・書籍を見ると、スピード時代のテンポにあわせるための漢字廃止論や、昔の悠長な健康法とは違う毎日短時間でどこでもできる健康法、また、和服のままではスピード時代の動きに対応できないとして洋装を勧める記事まで、なんでもかんでもスピード時代と結び付けた記事があふれています。

 また、伝統を重んじる東京・神楽坂の料亭向け指南書にも、下町から神楽坂まで以前は路面電車で30~40分だったのがタクシーで10~15分になったことで、今はお客が座ったそばからお茶が出て、酒が出て、芸者が来てと、息もつかせぬ早いサービスが満足を得られると説いています。

 そんなスピード時代を代表するものは交通と通信です。日本で1925(大正14)年にラジオ放送が始まり、1930年代に入るとラジオの低価格化や放送の充実で視聴者数が急増します。東京市では電話の加入件数が増加し、1926(大正15)年から自動交換機が導入されました。郵便も1929(昭和4)年に航空郵便(エアメール)の取り扱いが始まります。

 交通では1929年に日本初の本格的な民間航空会社「日本航空輸送」が東京~大阪~福岡間や福岡~大連(満洲)間の運航を開始。一般人が利用できるような運賃ではありませんでしたが、お金さえ払えば東京~大阪間を3時間で移動できる事実に驚いたでしょう。

 モータリゼーションが訪れるのは数十年後のことですが、バス、トラック、タクシーなどの商用車は大正末から昭和初期にかけて広く普及し、東京市内を1円均一で利用できる「円タク」が流行。ドアツードアで速達する交通機関は人々の移動を大きく変えましたが、一方で乗客を奪い合う無謀なスピード競争が問題化しました。

【見た目からして速い!】スピード時代の象徴“流線形SL”ほか(写真)

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。