もうガタガタ「ロシア黒海艦隊」どう立て直す? 地中海は通れません 軍艦送り込むための“裏ワザ”ルートとは

最新鋭コルベットも楽々航行OK

 では、実際にバルト海や白海から黒海へ運河を使って軍艦を送ろうとした場合、ネックとなる点はどこでしょうか。問題になるのは、航行する船の「幅」と「水深」です。

 一見「まっ平」に思える、荒漠たるロシア平原ですが、それでも数十mの高低差があります。そして、このアップダウンをクリアするため、水路には多くの閘門(こうもん)が設けられています。

 これは水路の両側に水門(閘門)を設け、間に造ったプール状の閘室の水を出し入れし、水位が異なる水路同士を結んで船舶が航行できるようにする仕掛けで、パナマ運河などでも用いられている手法です。

 加えて、バルト―黒海水路の閘門の幅は最低18mと狭く、無理なく通れる船舶の幅は17mがほぼ限界でしょう。

 ただし、ロシアの最新コルベットであるカラクルト級(満載排水量870トン、喫水4m)の全幅は9m、前作のブーヤン級コルベット(同940トン、2.6m)は11m、ナヌチュカ級コルベット(同670トン、2,4m)なら12.6mなので、これら艦艇なら楽に通れそうです。

 一方、「水深」の問題は、長年にわたる土砂の堆積による浅底化です。

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ロシア国境警備隊の警備艇(手前)とロシア海軍のミサイル艇(画像:ロシア国防省)。

 旧ソ連時代は保守点検が徹底され、水路の水深は最低でも4m以上が確保されていたようです。しかし、ソ連崩壊後は予算不足で浚渫(しゅんせつ)費用が捻出できずに放置された結果、場所によっては水深2~3mまで浅くなり、船舶の航行に支障が出ているとの指摘もあります。

 ただし、ウクライナ侵略後は、戦闘を継続するため、ロシア政府は艦艇が航行できるように、急きょ浚渫工事を実施しているようです。

 事実、2024年5月には「バルト―黒海水路」上にあり、ボルガ河に面したゼレドリスク造船所(カザン近郊)で、カラクルト級コルベットの14番艦「タイフーン」が進水、水路を使って黒海に移送されています。

 特筆すべきは、ゼレドリスク造船所のように、同水路には造船所が多数存在し、コルベットクラスの軍艦なら、ごく普通に建造している点です。実際、アストラハン、ボルゴグラード、ニジニ・ノヴゴロドといった水路沿いの主要都市には、ドックではなくスリップウェイ(横滑り型)を備えた造船所の姿を見ることができます。

 そのため、今後、ロシアがこうした内陸造船所をフル操業させて、中小軍艦を量産する可能性があります。そういった動きは大陸国家だからこそといえ、「内陸で軍艦建造」は日本では考えられない光景だとも言えるでしょう。

【了】

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Writer: 深川孝行

1962年、東京生まれ。法政大学文学部地理学科卒業後、ビジネス雑誌などの各編集長を経てフリージャーナリストに。物流、電機・通信、防衛、旅行、ホテル、テーマパーク業界を得意とする。著書(共著含む)多数。日本大学で非常勤講師(国際法)の経験もある。

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