儲かる?何のため?「青春18きっぷ」の忘れられた経営価値 このままでいいの?

今に続くディスカバージャパン効果

 ディスカバージャパンが若者を対象にしたのは、「お金は無いが時間はあり、若いうちに鉄道旅行を体験すれば、長く一生鉄道に乗り続ける」という狙いがあったはずです。夜行の座席急行の固いボックスシートで一晩を過ごせば、特急列車の座席は魅力的に見えます。周遊券の鉄道旅行を体験した世代は新幹線の上得意客にもなったでしょう。

 現在国内旅行を支える中高年層も、ディスカバージャパンが生んだ国内鉄道旅行好きの方々が多いはずですし、「ジパング倶楽部」や「フルムーン」などのキャンペーンも、そうして育った鉄道旅行世代を対象にしていると思われます。

 青春18きっぷを生んだキャンペーン「いい日旅立ち」はディスカバージャパンほどの規模ではありませんでしたが、青春18きっぷは自動車しか乗らなかった中年層の方々にも使われ、それなりの成果はあったように感じられます。

40年前とは状況が違う? 忘れられた経営価値

 さて、現代になると状況は変わります。夜行急行や周遊券は廃止され、夜行バスや格安航空会社が発達し、若者の貧乏旅行はバスや飛行機に移りました。果たしてこの方々は将来、新幹線を移動手段として選ぶでしょうか。

 また、青春18きっぷの時期に混み合う普通列車は「儲からないから増結しない」という声も聞こえ、長時間立ち通しの人も出ています。せっかく若者に鉄道旅行を体験させても、それが苦痛であれば「鉄道は二度と使わない」と思う人を増やしてしまい、キャンペーンは逆効果になります。青春18きっぷに当初付けられた「のびのび」という名前も、ゆったりのびのびと鉄道旅行を楽しんで欲しいという思いがあったはずです。

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青春18きっぷの価格は現在1万2050円。1986年に1000円値上げで1万1000円となって以降は、消費税率の変更に伴う価格改定に留まっている(画像:写真AC)。

 青春18きっぷを利用される方の年代も高くなっているように思えるのも気にかかるところです。また、2点間を結ぶ飛行機や夜行バスと異なり、鉄道は多くの駅を結ぶので途中下車ができる事は他に無い大きなメリットなのですが、途中下車ができない企画券が増えているのも気になります。

 鉄道は50年、100年と長く続くシステムです。後の鉄道を支える将来の顧客を作る長期的な視野が忘れられていないか、青春18きっぷの状況を見ると少々不安になるのです。

【了】

「どこでもドアを手に入れた位の衝撃」青春18きっぷ“初体験”の思い出 517人の声(画像)

Writer: 山田和昭(日本鉄道マーケティング代表、元若桜鉄道社長)

1987年早大理工卒。若桜鉄道の公募社長として経営再建に取り組んだほか、近江鉄道の上下分離の推進、由利高原鉄道、定期航路 津エアポートラインに携わる。現在、日本鉄道マーケティング代表として鉄道の再生支援・講演・執筆、物流改革等を行う。

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