JR東日本「銀行の特典」が超手厚いワケ 鉄道4割引は“客寄せ”以外にも狙いアリ 「JRE BANK」に乗り出す目的は?
手厚い特典を用意する意義は?
2024年4月に発表された特典は予想以上に手厚いものでした。目玉はJR東日本線の片道運賃・片道料金が4割引という、株主優待券と同じ割引率の「JRE BANK優待割引券」です。株主優待券と同じ割引率の特典が資産残高50万円以上でビューカード利用代金の引き落とし口座に設定すると年2枚、給与口座に指定すれば年4枚、資産残高300万円以上で引き落とし口座、給与口座の両方に設定すると最大の年10枚もらえます。
またJRE POINT(東京・上野・大宮駅発は6000ポイント、仙台・盛岡・新潟・長野発は5000ポイント)で、JR東日本の新幹線停車駅からランダムに提示される4駅の「どこか」に行ける「どこかにビューーン!」サービスの「2000ポイント割引クーポン」や、モバイルSuica限定の「Suicaグリーン券」も預金額に応じて付与されます。
なぜこれほど手厚い特典を用意するのか、銀行代理業に参入する意義、メリットについてJR東日本に聞くと、「一般の銀行にはない独自性の高い特典でお客さまに口座を開設していただくことで、当社グループの各サービスの入り口として接点を持つことが可能」だからだと述べます。
そして「当社グループのさまざまなサービスをおトクにご利用いただくことでグループ内のサービスの認知度やご利用の拡大を図っていきたい」として、特典で鉄道需要を喚起するだけでなく、それに伴うグループ全体への波及効果を期待します。
もうひとつの狙いはユーザーのお金の動きをつかむことです。同社はグループ経営ビジョン「変革2027」のなかで、「移動のシームレス化」と「移動・購入・決済のワンストップ化」、「金融機関、決済企業等の商品・サービス」の強化を掲げています。
JR東日本は2023年度末時点で9000万枚以上のSuica、2621万枚のモバイルSuica、月あたり約3億件の電子マネー利用、550万人以上のビューカード会員を有しており、これらのサービスを結びつけるJRE POINT会員は1500万人に達していますが、JRE BANKの特典を得るためには口座とJRE POINTの紐づけが必要です。
Suica鉄道利用、電子マネー利用、ビューカードを連携してグループ全体の購買データを一元的に把握するJRE POINTに、JRE BANKの口座情報、入出金記録を組み合わせることで利用者の消費活動の全貌をつかみ、JR東日本経済圏のマーケティングデータとして活用することが、JRE BANK設立の最大の目的といえるでしょう。
【了】
※9月12日9時、誤字を修正しました。
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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