領空侵犯対処で大失敗のスイス「軍の営業時間は午前9時からです」日本にとっても他人事ではない理由

「国民皆兵の重武装国家」という姿は幻想か

 スイスは国民皆兵制度と重武装を掲げ、小国ながらどの陣営にも属さず、第一次と第二次の両世界大戦、その後の東西冷戦においても中立を保ち続けてきました。そのスイスの領空を守るべき空軍が、平日の午前9時から午後5時までの日中しかスクランブル待機を行っていないという事実は、国民に衝撃を与えます。

 なぜ、そのような状況に陥ったのかというと、冷戦終結後の平和な国際情勢を背景に国防予算が削減されたから。その結果、空軍の運用体制までも縮小されていました。

 この事態は、スイスの安全保障に対する認識を根底から揺るがすものでした。中立という外殻のもと、国土と国民を守るための備えを怠ってきたのではないかと、国を挙げて自問自答せざるを得なくなったのです。

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スイス空軍のF/A-18「ホーネット」。2014年時点では平日昼間にしかスクランブル待機していなかったが、それから10年経ち、現在は24時間化対応が可能(関 賢太郎撮影)。

 スイス政府は、事態を改善するために「航空警察24」計画として抜本的な改革に乗り出します。フランスやイタリアといった隣国にスクランブルを委託していた状況を脱し、自国で24時間365日、年中無休の空軍を構築することが目標となりました。

 すると、その計画案自体2009年には存在していたものの、5年ものあいだ実際に予算が投入されることなく放置されていたことが判明します。周囲をフランスやドイツ、オーストリア、イタリアといった先進国に囲まれたスイスにとって、もはや戦争は過去の出来事であるかのように国民全体が捉えていたことが、このような日中のみの対応につながったと考えられます。

 平和であるがゆえに、スクランブル待機24時間化に伴う人員100名と年間3000万スイスフラン(約50億円)の予算を用意し、空軍を増強するなどという決定は誰にもできなかった、誰もしようとしなかったといえるでしょう。

【懐かしの戦闘機だ!】これがパートタイマー操縦士によるスイス空軍のアクロバット飛行隊です(写真)

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