領空侵犯対処で大失敗のスイス「軍の営業時間は午前9時からです」日本にとっても他人事ではない理由

年中無休のスクランブル体制はつい最近

 エチオピア航空機ハイジャック事件は、スイスにとって、平和な時代における安全保障のあり方を問い直す契機となりました。中立という原則を堅持しつつも、現実的な脅威に対しては適切な対応を行うことの重要性が、改めて認識されたのです。

 それは火災が発生してから消防署を建築し、消防車を揃え、消防士を訓練し始めたとも形容できる、全てが遅すぎる対応でしたが、それでも着手しないよりはマシです。

 最初のステップは2016年に実施され、2機のF/A-18「ホーネット」戦闘機が平日の午前8時から午後6時まで利用可能になりました。2017年には365日に拡大されます。そして2019年初頭には、その時間が午前6時から午後10時までさらに伸び、ハイジャックから約7年後の2020年12月31日には、年中無休いつでも15分以内にスクランブルが可能な状況にまで、空軍の体制が改められました。

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スイス空軍の基地は山間に建設されていることが多い。基地外周を小回りで旋回し着陸するF/A-18戦闘機(関 賢太郎撮影)。

 スイス空軍の夜明けは、平和な時代における安全保障のジレンマを象徴する出来事と言えるでしょう。中立という理想と、平和であることによってその重要性が忘れ去られた軍備、現実的な安全保障の必要性との間で、各国は常にバランスを取らなければならないのです。スイスの経験は、このジレンマに対するひとつの答えを示唆していると筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は捉えています。

 平和な時代でも安全は無料(タダ)ではありません。また、必要になってから揃えはじめても、それでは遅すぎるのです。自衛隊の規模を縮小させることは簡単です。しかし、一度失ったノウハウを再建するには、より多くのコストと年月が必要になるのは論を俟ちません。
 
 スイス空軍のスクランブルに関する一連のゴタゴタは、翻って中国軍機による我が国領空の侵犯問題にもつながる「他山の石」と言えるのではないでしょうか。

【了】

【懐かしの戦闘機だ!】これがパートタイマー操縦士によるスイス空軍のアクロバット飛行隊です(写真)

Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。

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