夢のまた夢が現実に? 日本の防衛装備品「アメリカ輸出」なるか “脱・受け身”への茨の道を聞いた【前編】

障壁が高いアメリカ市場への参入 それを乗り越える方策とは?

 アメリカに装備品を輸出する、つまりアメリカ市場に参入することには大きな障害があります。それこそが、洗井事業部長も指摘されていた「巨大なアメリカの防衛産業」の存在です。そこで、それを乗り越える方策として三菱電機が選択したのが、アメリカ企業との提携だといいます。

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洗井昌彦 三菱電機 執行役員 防衛・宇宙事業本部副事業本部長 兼 防衛システム事業部長(画像:三菱電機)。

「やはり、国防総省としてもアメリカ企業の製品を使いたいと思っているので、アメリカ市場への参入は一筋縄ではいきません。そこで、私たちが進めているのがアメリカ企業との業務提携です。たとえば、三菱電機が作ったコンポーネントをアメリカの企業に提供するというもので、これはRTX社とのSPY-6の案件が好例です。あるいは、アメリカ製のシステムであってもそれをそのまま導入するのではなく、我々の技術なども織り交ぜた新しいものを共同で作り上げるといったやり方もあります」

 さらに、日米共同開発という方式もあると洗井事業部長は指摘します。そこで思い起こされるのは、かつて日米で共同開発した弾道ミサイル迎撃用の「SM-3ブロック2A」の例です。この時、日本は弾頭部を収めるミサイル先端部のノーズコーンと呼ばれる部分などの開発を担当しました。しかし、洗井事業部長はこれと異なる形での「日米共同開発」を模索しているといいます。

「『SM-3ブロック2A』は、決められた枠の中で予算などを分担し、日本としてどこを担当できるかというプログラムであり、開発構想の段階から参加するというものでありませんでした。私たちが考えているのは、日米共通の新しい装備品を日米の企業が『企業発』で提案していくというものです」

 これまでのように、防衛省から出された装備品に関する要求に基づいて装備品を開発するのではなく、日米企業がタックを組んで、先行的に各種の装備品を開発して、それを自衛隊やアメリカの国防総省に提案していくということです。

 すでに、三菱電機では2024年7月9日にノースロップ・グラマン社との間で「日本・米国向け防衛装備品に関する覚書」を締結していますが、これには「電子戦システム、レーダー、通信システム等」の分野に関して、共同開発した装備品を日米防衛当局に対して提案するための協業を進めていくことが合意事項に含まれているといいます。

 これまで、日本の防衛産業では日本の限られた市場のみを主要な取引先としてきました。そのため、アメリカを含めた海外市場への参入はハードルが高いのも事実ですが、しかし海外企業との提携により、その壁を乗り越えようとしているのが、三菱電機の企業戦略というわけです。

【了】

【ここにもあそこにも!】三菱電機が手掛けてきた防衛装備品の数々(画像)

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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