高知に突如現れた「日本一遅い新幹線」 JRすら「知らなかった」 一体何なのか、“仕掛け人”を直撃!
フェイクではなかった!「時速15kmの日本一遅い新幹線」
高知に到着した坪内セドリックですが、何も運用情報も持っていませんでした。はりまや橋を起点に後免・伊野・桟橋・駅前線の4路線、総延長25.3kmにも及ぶ長大な路面軌道をもつ、とさでん交通。まずは東の終着である後免町から沿線を走り、すれ違う電車を確認するローラー作戦を展開しました。
走ること30分。伊野方向から雑踏のなか現れたのは、まさに新幹線ラッピングのとさでん600形617号車です。かつては1974年に廃止された専用軌道「安芸線」への乗り入れも2両連結で行っていた車で、その名残りに密着型連結器とジャンパ線、エアホースが装備されています(現在は緊急時用のために装備)。
すぐさま追跡モードに入り後を追います。車体を追尾しながら確認しますが、どこのクライアントで実施したものかを示すラッピングも文言もなく、折り返し停車中に車内も覗いてみますが、それとわかるポスターやパネルもありません。
あとで電車の運転手にも聞いてみると、「これ、どこの会社が仕掛けたものかね……さっきも自転車で必死に追う人がいたなぁ」と詳細は分からないとのこと。誰も知らない謎の新幹線が悠々と高知の町を走っているのです。
これは、とさでん交通本社に聞いてみるしかありません。すると、このクライアントは「高知県交通運輸政策課」であることが判明しました。
聞けば「四国新幹線」実現に向けて、その機運を盛り上げようと企画されたもので、夏まつりへのチラシには、JR西日本・JR東海のライセンス許諾に手間取ったため掲載が間に合わなかったという事情があったようです。それが却ってサプライズという形で話題を呼んだともいいます。ちなみにラッピング経費や広告契約料等を入れて約250万円かかっているそうです。
そして気になるのは、いったいいつまで走るのか。担当者曰く、通常のラッピング広告という扱いなので、契約の関係上8月10日からの2か月契約で運行しているそうで、つまり今月9日で運行終了となり、元の塗装に戻るというのです。
間もなく「幻」となる高知の新幹線。県の担当者は、来年度も何かしらのカタチで実施できればと思案しているとのこと。「できれば引退も決まってしまった黄色のアノ新幹線にしていただければ……」と、すかさずリクエストを伝える鉄道カメラマンでした。
【了】
Writer: 坪内政美(スーツの鉄道カメラマン)
1974年生まれ、香川県在住。いつでもどこでもスーツで撮影に挑む異色の鉄道カメラマン・ロケコーディーネーター。各種鉄道雑誌などで執筆活動をする傍ら、予土線利用促進対策協議会のアドバイザーやテレビ・ラジオにも多数出演するなど、鉄道をワイフワークに活動している。著書に「鉄道珍百景」「もっと鉄道珍百景」「駅スタンプの世界」「100万キロを走ったセドリック」(いずれも天夢人刊)がある。
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