“缶詰め生活”の軍艦乗り、病気や虫歯はどうしてる? 独海軍の激レア艦が「海に浮かぶ病院」になるとき
国境を越えて人命救助
フランクフルト・アム・マインは、建造時に搭載されていた救命救急センターが2015年に火事で焼失してしまい、その替わりに、2022年にドイツ海軍で最高水準となる新しい救命救急センターが搭載されました。
それにより、手術室が2つ、様々な検体検査を行うラボラトリー、医療器具などを滅菌する中央材料滅菌室、歯科病棟、薬局、レントゲン室が設けられました。病床も43床と多い上、血圧低下などの緊急時に頭より脚を15cm高くする「ショック体位」に一瞬で移行できるベッドや、集中治療用ベッドなども完備されているそうです。
当然、医療スタッフも充実しています。フリゲートのバーデン=ヴュルテンベルクは船医しか同乗していませんが、補給艦のフランクフルト・アム・マインは船医のほかに外科医、麻酔医、歯科医も同乗しているのです。
フランクフルト・アム・マインで治療できない病気やけがはないと言っても過言でありません。
「海に浮かぶ病院」の称号にふさわしく、今回のIPD24の任務中、フランクフルト・アム・マインは、他国の艦隊とも連携し、国境を越えた人命救助活動にも貢献しています。
日本に寄港する前、2024年6月のことです。ハワイ沖で開催された環太平洋合同演習(リムパック)に参加するため、米国カリフォルニア州サンディエゴからハワイに向かって1400kmほど進んだところで、一緒に航行していたメキシコ艦隊の水兵が生死に関わる急病で倒れたのです(ドイツ海軍専門メディア「marine forum」による)。
24歳の兵士はまず、メキシコ海軍のフリゲート「ベニート・フアレス」から、メキシコ海軍の揚陸艦「ウスマシンタ」にヘリコプターで移されましたが、そこからさらに、充実した医療設備を備えているフランクフルト・アム・マインにヘリコプター輸送されました。ドイツ海軍の外科医や麻酔医が手術の体制を整えて患者の到着を待ち構え、急病の兵士に対して迅速かつ適切な医療措置を施したおかげで、一命を取り留めました。
このように、洋上での医療体制は非常に重要であり、特に長期間の任務中には、船員の健康を守るためのシステムが不可欠です。
【了】
Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)
アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。
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