陸海空を制覇した「夢の戦車」だ! ギネス登録された“世界的ベストセラー” なぜ最強になれなかった?

現在の主力戦車はかなり早いですが、それを上回る速度をたたき出していた戦車が1970年代に存在しました。FV101「スコーピオン」、この戦車はなぜ生まれたのでしょうか。

空挺戦車は無理でも偵察車両としてその性能を発揮

 しかし、パラシュートで空中投下可能で、かつ高性能な戦車を作るというのは簡単な話ではありません。輸送機に積むということは、その機内スペースと積載量の制限に収まる車体サイズと重量にする必要があるということであり、困難を極めました。

 この問題を解決するため、1960年代前半になると、新型空挺戦車開発の権利を得たイギリスの軍用車両メーカーであるアルヴィスで、鉄よりも軽いアルミニウムを戦車の装甲に使う方法が考え出されます。

 さらに、エンジンも戦車用のものより軽いものにしようと、市販のジャガー製XK6直列6気筒液冷ガソリンエンジンに白羽の矢が立ちました。これを改造して積むことで、軽量化と省スペース化を実現。こうした努力によって車体重量8t、最高速度80km/hを超える軽量かつ高機動な戦車が生まれたのです。

こうして完成したFV101「スコーピオン」は、まず1970年5月にイギリス陸軍との間に275両の購入契約が締結されました。

「スコーピオン」は、コンパクトなためアメリカ製のC-130「ハーキュリーズ」輸送機であれば機内に2両を積めるほか、その軽量さから大型ヘリコプターでも吊り下げ空輸が可能で、陸軍の要望を十分満たすものでした。また、軽いため水上浮航も可能で、車体の周囲にスクリーンを展張することにより約6km/hで航行できました。

 主武装は76mmカノン砲で、HESHという特殊な砲弾を使えば、ソ連製のT-55戦車でも撃破が可能な性能を持っていました。しかし、1970年代以降、ソ連を始めとした東側陣営の国でT-72戦車の配備が進むと、威力不足が露呈するようになり、早々と空挺戦車や軽戦車としての扱いは難しくなりました。

 そのため、以降は主にその足の速さを活かした偵察車両として使用されることになります。

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疾走するFV101「スコーピオン」(画像:アイルランド国防軍)。

 ただ、偵察車両としての「スコーピオン」の寿命はかなり長く、イギリス陸軍が運用した車両は1982年のフォークランド紛争や1991年の湾岸戦争に参加しています。

 なお、イギリスでは1994年に退役していますが、アイルランド軍やボツワナ軍など、陸軍が小規模な国では2024年現在も戦車として使用しています。また、延命措置としてジャガーのガソリンエンジンをアメリカのカミンズ製ディーゼルエンジンに換装したタイプもあります。

 奇抜な発想で作られたのにも関わらず、「スコーピオン」は最終的に3000両以上が製造されたヒット兵器となりました。

【了】

【同じようなコンセプト…】アメリカで作られた空挺戦車です(写真)

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