「これスポーツカー用ですよ!?」 オバケエンジン積んじゃった「伝説の軽トラ」 はナニモノ? 中古車市場では驚愕の金額も
20世紀初頭にフランスのレーシングカー用に開発されたエンジンを、日本のホンダではなんと軽トラに搭載していました。高性能だけど高コストなエンジンを搭載した伝説の軽トラ「T360」とは、一体どんな車なのでしょうか?
今では中古車市場で「伝説の存在」に
1960年代はじめというと、すでに軽トラはダイハツ・ハイゼットやスズキ・キャリイが市場を席巻しており、T360は後発での登場でした。そのためか特に外装のデザイン面では、曲線と直線をうまく混在させた個性的なものとなり、フロントには大きくホンダの「H」があしらわれました。
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今、当時のハイゼットやキャリイと比べてみると、特にT360が抜きん出てオシャレな軽トラのように筆者は感じますが、結果的に4年間の短命に終わり、軽トラ市場の占有率はわずか6%ほどという惨敗によって姿を消すに至りました。
日本初のDOHCエンジン搭載車であり、ホンダ初の四輪車でもあるT360。今見てもかわいらしくオシャレなルックスの裏には、こんな残念なストーリーもあったというわけです。
しかし、バイクから出発したホンダが、今日では日本の名だたる自動車メーカーと肩を並べるようになっていることからすれば、T360の失敗は決して無駄ではなかったように思えます。また、前述のように高性能ながら非常にコストの高いエンジンを搭載していたことで、「エンジン一機が、車体の販売価格を上回るんじゃないか」と揶揄されるほどの採算分岐が高すぎるモデルでもあり、当時の開発担当者も「オバケエンジン」とやや自虐的に振り返ったとも。
ただし、このT360の失敗からホンダは4輪事業のリスタートを図り、1967(昭和42)年に発売された後継的モデルのTN360は、コストを削減しながら市場開拓を目指し、10年間生産され続けました。
ちなみにT360が4年間で市場に送り出した台数は約10万台。その出自や伝説と合わせて考えれば、今日でももっと個体が残っていてもおかしくないように思いますが、現状の中古車市場では数台のみ。しかもその希少性から200万円台後半から高いものでは400万円超えという、これまたオバケ価格で取り引きされているようです。
所有ユーザーの談話によれば、生産中の4年間に、明確なマイナーチェンジなどがない一方、現場の意見を受けて場当たり的に設計変更や改修が行われてきた経緯からパーツ入手が難しく、消えていった個体があまりに多いとも。
もちろん実用車・商用車という「酷使されるクルマ」だったことも個体が残りにくい理由だと思われます。ただ、こんなにかわいく、伝説の存在であるT360ですから、いつか自分の手でエンジンをかけ、その当時の高性能エンジンを体感してみたいとも思いました。
Writer: 松田義人(ライター・編集者)
1971年、東京都生まれ。編集プロダクション・deco代表。バイク、クルマ、ガジェット、保護犬猫、グルメなど幅広いジャンルで複数のWEBメディアに寄稿中。また、台湾に関する著書、連載複数あり。好きな乗りものはスタイリッシュ系よりも、どこかちょっと足りないような、おもちゃのようなチープ感のあるもの。
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