女性を意識した珍しい観光列車「伊豆クレイル」徹底解説 料理の内容、試乗記も

観光列車が各地を走る現在、特に女性を意識して登場したJR東日本の珍しい観光列車「伊豆クレイル」。その車内やサービス、料理などについて徹底解説します。また試乗列車へ乗車し、それが提案する「旅」の内容も体験してきました。

一番列車は運転士と車掌も女性で

 2016年7月16日(土)、JR東日本が特に「女性」を意識した珍しい観光列車「IZU CRAILE(伊豆クレイル)」をデビューさせました。

160718 izucraile 01
「伊豆クレイル」にはアテンダントが乗務。食事やドリンクのサービスを行う(2016年6月、恵 知仁撮影)。

 JR東日本によると「景色」と「食(お酒)」「会話(おしゃべり)」を楽しむという列車のコンセプトから特に「女性」を意識したといいますが、近年、車内で沿線の味覚を楽しめる観光列車は珍しくないのが現状。「差別化」という面でも、「女性」には大きな意味がありそうです。

 この「女性」が特に意識された「伊豆クレイル」の車両、651系電車は、外装デザインに白とピンクゴールドを採用。「柔らかさ」と「女性らしさ」を取り入れたほか、伊豆ゆかりの「桜」「海風」「さざ波」をピンクゴールドのラインで描くことで「エレガントな大人のリゾート」を表現したといいます。

160718 izucraile 02
「伊豆クレイル」の651系電車。以前は常磐線の特急「スーパーひたち」などで使われていた車両(2016年4月、恵 知仁撮影)。

 車内で味わえる料理も、特に女性に人気という東京・目黒のフレンチレストラン「モルソー」の秋元さくらオーナーシェフが監修。座席の上にある網棚も、通常より低くされています。また7月16日(土)の「伊豆クレイル」一番列車は、運転士、車掌とも女性の担当で始発駅を発車。あえてそうされたもので、「“晴れの日”に向けて訓練してきた」とそうです。

 ちなみに「IZU CRAILE」の「CRAILE」は、「Cool」「Elegant」というキーワードに「RAIL」を組み合わせて誕生した造語です。

160718 izucraile 03
伊豆半島の東海岸へ沿うように、小田原~伊豆急下田間で運行される「伊豆クレイル」(国土地理院の地図を加工)。

 この「伊豆クレイル」は全車グリーン車指定席の快速列車として、土休日を中心に、小田原駅(神奈川県小田原市)と伊豆急下田駅(静岡県下田市)のあいだで運行されます。伊豆半島の東海岸へ沿うように走るため車窓から相模灘の風景を楽しむことができ、特に景色の良い場所(根府川駅付近、伊豆熱川~伊豆稲取間)では徐行運転や一時停止も実施。「あえてゆっくり行く」のも特徴です。

「4車4様」の「伊豆クレイル」 山側から海を楽しむ工夫も

「伊豆クレイル」は4両編成で、その車内は「和モダン」をコンセプトに、それぞれの車両でそれぞれの楽しさを感じられるデザインになっています。

160718 izucraile 04
山側の席からも海を楽しめるよう配慮されている「伊豆クレイル」1号車(2016年4月、恵 知仁撮影)。

 伊豆急下田駅側の先頭車、1号車の座席は、窓を向いて2人が横に並ぶものと、2人が向かい合わせになるものの2タイプ。窓向き席が海側で、向かい合わせ席が山側になりますが、山側の席は床が一段高くなっており、そちら側からも相模灘の風景を楽しめるよう工夫されています。

160718 izucraile 05
沿線ゆかりの「味」や「物」、オリジナルアイテムが販売される「伊豆クレイル」2号車(2016年6月、恵 知仁撮影)。

 2号車は物販カウンターとラウンジです。オリジナルの「ニューサマーオレンジタルト」や「かまわぬの手ぬぐい」、伊豆の伝統調味料といった沿線エリアにちなんだフード、ドリンク、お土産などを購入することが可能です。

 また、ラウンジにはデジタルサイネージとショーケースが設置され、観光情報の発信、工芸品の展示などを実施。物販カウンターで購入した飲食物を楽しみながら、くつろぐことができるといいます。

160718 izucraile 06
コンパートメントが並ぶ「伊豆クレイル」3号車。すべての部屋が海側を向いている(2016年4月、恵 知仁撮影)。

 3号車は、グループ旅行に向いたコンパートメント席(半個室)です。運行の際には通路側に「のれん」がかけられ、「気兼ねなく会話を楽しめるプライベート感を確保した」(JR東日本)とのこと。

 ちなみに、「のれん」は季節に応じて静岡県河津町の「河津桜」や神奈川県湯河原町の「みかんの木」、静岡県伊東市の「椿」など、伊豆13市町および沿線4市町の花・木をモチーフにしたものが掛けられます。

160718 izucraile 07
一般的な特急列車に近い雰囲気の「伊豆クレイル」4号車(2016年4月、恵 知仁撮影)。

 4号車は、回転式の2人掛けリクライニングシートが並びますが、4人掛けのボックスシートも3か所用意され、1人からグループまで柔軟に使えるのが特徴です。

「伊豆クレイル」の1号車と3号車に乗車するには、JR東日本の駅にある「びゅうプラザ」や旅行会社などで、この列車を使った旅行商品を購入する必要があります。4号車は、一般的な特急列車へ乗るときと同じように、駅「みどりの窓口」などできっぷの購入が可能です。

 ちなみに、旅行商品として販売される3号車では、伊豆急下田行き列車に限り「ワイン飲み放題」のオプションも用意されています。また旅行商品の代金は、大人片道1万円程度からです。

金目鯛や伊豆温泉メロン&生ハムなど 2種類のその土地らしい食事

「伊豆クレイル」車内で提供される料理は、特に女性に人気という東京・目黒のフレンチレストラン「モルソー」の秋元さくらオーナーシェフ監修です。

160718 izucraile 08
「伊豆クレイル」の料理を監修した東京・目黒のフレンチレストラン「モルソー」の秋元さくらオーナーシェフ(2016年7月、恵 知仁撮影)。

「自然豊かな伊豆の食材を使用した料理を、『美しく』『楽しく』『親しみやすく』をモットーに開発しました。『伊豆クレイル』にの乗って、すてきな風景とともに楽しんでいただけたらと思っています」(フレンチレストラン「モルソー」、秋元さくらオーナーシェフ)

 楽しめる料理は、伊豆急下田行きの下り列車と小田原行きの上り列車で異なります。

 小田原駅を11時40分に発車する下り列車は、「クレイルスタイル・サマーランチセット」。以下の内容に「伊豆クラフトビール」またはソフトドリンク、コーヒー、ミネラルウォーターが付きます。

160718 izucraile 09
「伊豆クレイル」下り列車で楽しめる「クレイルスタイル・サマーランチセット」(2016年6月、恵 知仁撮影)。

ローストビーフとグラタンドフィノア/伊豆沖獲れ白身魚と野菜のエスカベーシュ/押し麦とラタトゥイユをつめたコンキリオーニ/ワサビ香る冷製フラン/伊豆野菜を包み込んだバロティーヌ/伊豆温泉メロンと生ハムのオードブル ピクルスを添えて/エビのポワレと夏野菜のピンチョス 伊豆の海塩を添えて/駿河湾の桜えびと枝豆のクリームコロッケ/ニューサマーオレンジとカカオのクラフティ/杏仁のババロアとマンゴーソース

 伊豆急下田駅を15時09分に発車する上り列車は、「クレイルスタイル・アフタヌーンカフェセット」。以下の内容にスパークリングワインまたはソフトドリンク、コーヒー、ミネラルウォーターが付きます。

160718 izucraile 10
「伊豆クレイル」上り列車で楽しめる「クレイルスタイル・アフタヌーンカフェセット」(2016年6月、恵 知仁撮影)。

伊豆下田港水揚げ・金目鯛のコンフィ ラタトゥイユを添えて/駿河湾の桜えびとベーコンのキッシュ/富士湧水ポークのボロニアソーセージを使ったカンパーニュサンドイッチ ワサビの風味/伊豆稲取ニューサマーオレンジプリン/ブルーベリーを使ったチーズケーキ/静岡県産抹茶のシュークリーム

 これら料理は、1号車と3号車を使う旅行商品の一部として提供されます。4号車で料理、ドリンク類の提供はないことに注意が必要です。

「伊豆クレイル」試乗(1)「ラウンジにかまぼこ板」

 2016年6月29日(水)、報道陣向けに「伊豆クレイル」の試乗会が実施されました。

160718 izucraile 11
小田原駅へ新たに設置された「伊豆クレイル」専用のラウンジ(2016年6月、恵 知仁撮影)。

 始発の小田原駅で、まず改札内コンコースに用意された「伊豆クレイル」専用のラウンジへ向かいます。

「小田原は木工の一大産地です。ラウンジには木の香りが漂います」(小田原市、加藤憲一市長)

 このラウンジでは、ベンチにも注目です。小さな板が何枚も並べられたようになっています。実はこれ、小田原名物である「かまぼこ」の板だそうです。

160718 izucraile 12
小田原駅で発車を待つ「伊豆クレイル」。乗降口でアテンダントが迎えてくれる(2016年6月、恵 知仁撮影)。

 12時45分、「伊豆クレイル」が小田原駅を発車。すると平地が一気に狭まって地形が険しくなり、さっそく見えてきました。海です。人口およそ20万人、神奈川県西部の中心都市としてにぎわう小田原の街から10分もたたないうちに、車窓へ「旅」が広がります。この「日常」から「非日常」へ切り替わる早さは、「伊豆クレイル」が持つ特徴のひとつかもしれません。

160718 izucraile 13
根府川駅に停車する「伊豆クレイル」。ホームの向こうには海が見えているが、曇天と同化している(2016年6月、恵 知仁撮影)。

 小田原駅から2駅目の根府川駅(神奈川県小田原市)周辺は、高いところから相模湾の眺望が楽しめる場所として「乗り鉄」に、そして相模湾と列車をあわせて写せる場所として「撮り鉄」に、大変有名です。

 この日はあいにくの曇天で、空と海が同じような色をしていましたが、「伊豆クレイル」からはそうした「鉄ちゃん」に有名な風景を、窓一面に楽しむことができます。

「伊豆クレイル」試乗(2)「海向き席の実力、目の前にはあのホテルが」

 県境を越えた熱海駅(静岡県熱海市)付近で、林立する温泉宿に旅情がさらに高められたのち、「伊豆クレイル」は東海道本線から伊東線へ進路を変更。いよいよ「伊豆半島の旅」、本格的なスタートです。

160718 izucraile 14
「伊豆クレイル」1号車の窓を向いた2人掛け席からは、正面に海を楽しめる(2016年6月、恵 知仁撮影)。

 伊豆半島は地勢が険しいためトンネルが多いですが、その合間に多賀や網代の街、そして海が展開。伊東駅へ近づいたところで海側の目の前に現れるテレビCMで有名なホテルもまた、「旅」を盛り上げる装置になります。しかしそんなとき、こんな車内放送が入りました。

「まもなく終点の伊東に到着します」

160718 izucraile 15
伊東駅に到着し、特急「スーパービュー踊り子」と並ぶ「伊豆クレイル」(2016年6月、恵 知仁撮影)。

 報道陣向けの「伊豆クレイル」試乗会は、14時18分着の伊東駅まで。この先、本来ならば終着駅である伊豆急下田駅まで引き続き相模灘などを楽しめ、温泉の湯気が立ち上る熱川の街や伊豆大島なども眺められるのですが、ここで下車です。後ろ髪を引かれつつ。

「地元食材を使ったオリジナル料理やお土産の提供、イベントの実施など、『伊豆のショーケース』のような列車にしていきたいと考えています」(JR東日本横浜支社、渡利千春支社長)

 JR東日本によると「伊豆クレイル」は好評で、予約受付中の下り列車はすでに満席とのことですが、上り列車にはまだ空きがあるそうです(2016年7月16日現在)。

【了】

この記事の写真一覧

Writer: 恵 知仁(鉄道ライター)

鉄道ライター、イラストレーター。「鉄道」や「旅」に関する執筆活動や絵本の制作を行っているほか、鉄道車両のデザインにも携わる。子供の頃からの旅鉄&撮り鉄で、日本国内の鉄道はJR・私鉄の全線に乗車済み。完乗駅はJRが稚内で、私鉄が間藤。メインは「鉄道」だが、基本的に「乗りもの」好き。

関連記事

最新記事

コメント

3件のコメント

  1. 料理にしてもそうですが、車内の内装デザインは本当に女性が喜ぶ?ご中年からご年配にはいいかもしれませんね。リゾートらしい雰囲気を作って楽しませてあげるといいのですが。お金をかけない内外装そのままですね。

  2. 583系は583系そのものであることに価値があり、動態保存的に延命を繰り返すほうがよいとは想像するが、寝台可変座席を設置した583系のレプリカ編成(あくまでもジョイフル仕様)はどうなのだろう?

  3. 妻と上り列車の1号車山側に乗りました。
    車内はやはり華やいでましたし、内装も座席の豪華さもあり好評でした。
    車内販売の小田原冷凍みかんサワーが好評で1号車の半数近い方が買われてました。
    保険の意味なのか4号車に一般席がありましたが、予約の取れなさを考えるとレストラン仕様にして欲しいかな。それとも来年出てくるresort21のクルーズトレイン横浜発に食われる事を意識して一般席があるのか…
    ともあれコンセプト通りあちらこちらおしゃべりが盛り上がってました。