ロシア軍がアメリカの戦闘車を“謎カスタム” しかも性能ダウン!? なぜ機関砲を大きくしたのか
ロシア軍が、M2ブラッドレー歩兵戦闘車の写真をSNSに投稿しました。注目されたのはその機関砲です。オリジナルの25mm M242から、ロシア製の30mm 2A72に換装されていました。ここから、どのようなことが考えられるでしょうか。
なぜわざわざ換装したのか?
ロシア・ウクライナ戦争は長期の消耗戦に突入しており、両軍とも装甲車両の不足が深刻です。敵から鹵獲した車両も、使えるものは積極的に戦線投入されています。
ロシア軍はM2ブラッドレーに鳥かごのような「コープゲージ(砲塔防護柵)」や装甲の追加といった“ウクライナ戦線仕様”への改造を施し、実戦へ投入しています。
この運用についての評価もレポートされており、それによると、25mm機関砲は強力で精度も高いものの、弾薬の供給が限られており、需要に応えきれていないことが指摘されています。また、TOW対戦車ミサイルはそもそも入手が困難で、鹵獲兵器では当然ともいえる問題を抱えています。そのため、ロシア側の機関砲に換装する方が現場では好まれる、という事情があるようです。
M2ブラッドレーは防御力、居住性、射撃管制装置の面では高く評価されている一方で、大型で目立ちやすく、重量があるためスタックしやすく、水上浮航能力も欠けているといった欠点も指摘されています。ウクライナの戦場では大きく重すぎて、鈍重で格好の標的になってしまい、多少防御力が高くても結果として破壊されるとの結論です。
実際、アメリカからウクライナに約300両が供与されましたが、OSINTサイト「オリックス」によると、2025年6月中旬までに177両が失われています。
今回、ロシアが機関砲を換装した理由は明らかではありませんが、使い慣れた30mm 2A72機関砲とM2ブラッドレーの整合性データを収集するための実戦トライアルなのか。それとも慢性化している装甲車不足を補うため、とにかく使える車体に使える武装を載せるという、ウクライナ戦線でよく見られる“魔改造”の単なる一例に過ぎない可能性もあります。
単純なスペック比較では、M2ブラッドレーはBMP-2より火力・防御力・居住性は優れているとロシア側も認めています。しかし、実際の評価はユーザーや運用環境に左右されます。
ロシア・ウクライナ戦争では、従来のような戦車と歩兵戦闘車が連携して戦う機甲戦はほとんど見られず、塹壕を挟んだ消耗戦の中でM2ブラッドレーの多くが失われ、持続的な戦力とはなっていません。とはいえ、貴重な実戦データをもたらしているのも事実です。
ドローンの急速な発達に注目が集まりがちですが、ロシア側では鹵獲兵器の分析・研究といった、一見地味ながら重要な情報活動が行われています。第38研究所のレポートでは、M2を参考に将来の装甲戦闘車設計において人間工学的配慮や、30mm機関砲用APFSDS弾の開発が提案されています。
実戦データは、何物にも代えがたい貴重な資源です。西側諸国でも、ロシア製戦車や装甲車の分析・研究は進められているのでしょうか。「ビックリ箱」みたいに砲塔が吹き飛ぶような戦車は、そもそも研究対象にすらならない――そのような“上から目線”で見てはいないことを願いたいものです。
Writer: 月刊PANZER編集部
1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。
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