ここが「本州最北の私鉄」か! 太宰治の故郷も 空から雄大な光景を追う

本州最北端の私鉄は津軽半島にある津軽鉄道です。太宰治作品の名を冠した気動車が、津軽平野を走ります。小型機からの「空から目線」でお伝えします。

腕木式信号機の“日本最北端”

 カメラは津軽五所川原11時50分発の下り準急列車を捉えました。普段の運行は普通と準急の種別がありますが、2025年6月から運転士確保の問題によって、減便ダイヤとなっています。

 津軽五所川原駅の構内と本線の境界には、腕木式信号機の場内信号機があります。津軽鉄道は日本で唯一現役の腕木式信号機を使用する鉄道会社です。使い続ける理由は「機構が単純で壊れないから」とシンプル。壊れないとは言っても日々のメンテナンスにはかなり気を遣っており、信号を動かす信号テコは丁寧に扱い、テコと信号機を結ぶワイヤーもマメにチェックしています。

 JR五能線と別れた線路は、交換駅の金木を目指して北上します。列車は田んぼの中の無人駅、五農校前駅へ到着。青森県立五所川原農林高校の最寄駅です。この高校で作られたお米や日本酒、リンゴなどが、津軽五所川原駅舎の売店で販売されています。

 津軽飯詰駅から先は、津軽山地の台地を進みます。準急は鉄道林が鬱蒼(うっそう)とした毘沙門駅を通過。歌手・俳優の香取慎吾さんが描いた「慎吾列車」が保存される嘉瀬駅、太宰治の郷里の金木駅と到着します。

 金木駅は上下線の交換駅であり、タブレット閉塞とスタフ閉塞が行われ、場内信号機は腕木式信号機が現役です。金木駅は腕木式信号機の現役最北端駅となりますね。

 芦野公園駅は桜が有名です。その始まりは1934(昭和9)年、金木町の商工会が芦野公園に桜を500本植樹し、芦野公園の桜は沿線行楽地として人気を博しました。旧駅舎は喫茶店となっています。

 下りの準急は川倉、大沢内駅と進み、五所川原市から中泊町へと入り、田園地帯の沿線は家々が集まってきました。終点の津軽中里駅はすぐ目の前です。町営団地らしい集合住宅を横目にして、準急は津軽中里駅へゆっくりと到着しました。

 線路はホーム先の堀割でプツッと途切れ、先へと延伸するような雰囲気もしますが、当初より当駅を終点として建設されました。冬場のストーブ列車が到着した際、機関車や気動車がこの掘割付近まで走行し、機回しする光景が見られます。

 津軽鉄道はこれからの季節、青々とした田園地帯と岩木山が車窓に広がり、アテンダントの観光案内も楽しめます。腕木式信号機とタブレット閉塞という昔日の鉄道憧憬も活躍し、有人駅は硬券が現役です。ストーブ列車以外の季節も、最北の私鉄の鉄道旅は堪能できます。

【秀峰と共演】「津鉄21kmの旅」を空から見る(写真)

Writer:

1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。日本写真家協会(JPS)正会員、日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。

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