世界中で売れる「南米生まれプロぺラ軍用機」A-29「スーパーツカノ」元々の敵は“反社”だった!? その誕生経緯とは
A-29Nは、NATO(北大西洋条約機構)加盟国での運用要件を満たすよう、A-29「スーパーツカノ」を新たにアップデートした機体ですが、元々同機はブラジルの犯罪組織に対応するために開発された機体になります。
もはや南米ではスタンダードといえる機体
2023年1月末、違法採掘業者による暴力や環境破壊によって深刻な危機に瀕していたヤノマミ族を支援するため、ブラジル政府と軍は「ヤノマミ・シールド」と呼ばれる“準軍事作戦”を発令しました。この作戦では、北部アマゾン地域の上空に防空識別圏(ADIZ)を設定し、衛星とE-99早期警戒機を中核とした厳格な監視体制を敷くという、まるで対外軍事作戦のような方法が採用されました。

作戦は同年4月初旬まで続けられ、その中でA-29「スーパーツカノ」は、低空域での監視・警戒活動において重要な役割を果たしました。現地の報告によれば、この作戦によって違法採掘業者の約8割が活動停止に追い込まれたと推定されています。
しかし、それでもなお違法滑走路の建設や、再び活動を再開する勢力は後を絶たず、ブラジルにおける麻薬問題やアマゾン地域での違法行為がいかに根深いかが浮き彫りとなりました。
こうして、反社会勢力への対応を通じて実戦経験を積んできたA-29「スーパーツカノ」は、その優れた兵装搭載能力と、低速域での安定した飛行性能を活かし、地上近くでの偵察・監視任務や対テロ作戦支援にも有効であることが証明されました。この性能は評価され、チリ、コロンビア、エクアドルなど、南米の他国でも採用が進み、2024年8月にはウルグアイも導入を決定。南米の攻撃機としてスタンダードな存在となりつつあります。軽攻撃、近接航空支援のほかジェット機を操縦するパイロットの初期訓練なども同機で可能で、汎用性の高さも評価されているようです。
2020年代に入ってからは、巡航速度約520km/hという、ジェット機より遅く、しかし低速域では非常に安定するという特性を活かし、ドローン迎撃機としての活用にも注目が集まっています。こうした背景のもと、エンブラエルはNATO向けに開発したA-29Nの販売を、ポルトガルにとどまらず他の加盟国へも拡大する構えで、各国へのアピールを強化しています。
NATO仕様のA-29N「スーパーツカノ」には、先進的なアビオニクス(航空電子機器)やNATO準拠の通信・操縦システムが搭載されています。さらに訓練デバイスには、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)といった最新の技術が導入されており、世界最高水準の教育・訓練環境を提供できるよう改良されています。
ポルトガルは同機を、船舶による密輸対策に加え、空軍戦力の多層化(ハイ・ロー・ミックス)に対応する機体として導入する考えです。
Writer: 斎藤雅道(ライター/編集者)
ミリタリー、芸能、グルメ、自動車、歴史、映画、テレビ、健康ネタなどなど、女性向けコスメ以外は基本やるなんでも屋ライター。一応、得意分野はホビー、アニメ、ゲームなどのサブカルネタ。
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