「まだ退役しないの?」 もうすぐ就役から半世紀の「不死身」攻撃機、トランプ要求も跳ねのける生命力の“謎”

アメリカはトランプ大統領の意向も踏まえて、A-10攻撃機を2026年度中に退役させる方針でしたが、2025年7月、上院でその方針が否決されました。「不死身のイボイノシシ」とも呼ばれるA-10は、なぜなかなか退役できないのでしょうか。

本当にF-35には代替できないのか?

 A-10は就役からほぼ半世紀が経とうとしています。本当にF-35では代替できないのでしょうか。

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2021年8月、多国籍演習「ノーザン・ストライク21-2」でミシガン州アルペナの高速道路に着陸するセルフリッジ空軍州兵基地のA-10(米空軍パブリックドメイン)

 F-35はマルチロール機であり、CASにも対応できるように設計されています。しかしA-10とはコンセプトが根本的に異なります。A-10は強靭で撃たれ強い、低速・低高度での長時間滞空能力があり、地上部隊と連携しやすい――とCASに特化されています。

 一方でF-35は、ステルス性重視で撃たれることは考えていない、超音速機のため燃料消費が多く滞空時間はA-10より短い――などA-10とは正反対の特徴です。アフガニスタンなどで試験的に投入された際も「F-35ではA-10のような待機型支援が難しい」とする実地報告もあります。

 A-10はイラクやアフガニスタンで実績を重ね、地上部隊にとっても頼れる空の戦友とされ、30mm機関砲などの強力な火力や「不死身」の異名をとるような生存性の高い強靭な機体にはエピソードを事欠きません。しかし、この過去の実績が「物語化」し、A-10を実力以上に評価しすぎていることは否めません。退役大将を含む16人もの将官が、議会に延命嘆願すること自体、過去の栄光物語にこだわりすぎているような印象です。

 一方でA-10の退役議論には、単なる戦術的・経済的合理性を超えた政治的要素も絡んでいます。アリゾナ州やジョージア州など、A-10配備基地を持つ州の議員たちは、地元経済や兵士の雇用維持を理由にA-10の存続を強く主張します。こうした「地元ファースト」の姿勢は共和党、民主党の党派性を超えて共有されており、議会にA-10擁護の声が根強く残る理由の一つとなっています。

 レーダーや電子機器、ネットワーク通信など現代戦に不可欠な要素がA-10にはまったく不足しており、2025年の米会計検査院(GAO)報告では、「A-10の耐久性には評価があるが、高度な防空網下では被撃墜リスクが高く、退役を急ぐべきとの見方がある」と冷静に評価されています。

 A-10を維持すべきという議論は時代遅れになりつつあります。空軍も各方面からの干渉にうんざりしているのが本音のようで、予算が限られる中でA-10の引退を進めつつ、当面は精密誘導兵器搭載マルチロール機(F-35やF-16など)の併用が現実的な落としどころと見ているようです。

「不死身のイボイノシシ」は、代わるもの無き特異な能力と実績、現場からの信頼と思い入れ、そして政治的な後ろ盾が複雑に絡み合い、トランプ大統領の圧力も弾き返す生命力を示していることには注目すべきものがあります。

【強さの秘密?】A-10の構造が分かる「断面図」を見る(写真と図)

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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