「名前通りマジで“平成”極めちゃった」な遊覧船、廃止なぜ? 「需要ない」とは全く異なる“切実な事情”

下北半島の遊覧船「夢の平成号」の運航終了が迫っています。どのような船で、なぜ廃止となるのでしょうか。今回は実際に乗ってみました。

廃止の理由は北海道のあの事故

 廃止の理由のひとつは、2022年に北海道で発生した知床遊覧船沈没事故です。

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脇野沢港に停泊中の「夢の平成号」。乗船の際には左端に映るタラップを利用した(布留川 司撮影)。

 この事故では、運行会社による船舶設備の不備と、安全を軽視した運行体制によって乗客乗員計26名が死亡・行方不明となりました。この事件をきっかけに国土交通省は「旅客船の総合的な安全・安心対策」を実施。そこでは運行体制の見直しだけでなく、運行される船舶に無線設備や救命いかだなど装備品の搭載が義務付けられました。

「夢の平成号」は古い船ですが、定期メンテナンスはしっかりと行われ、最近もエンジンを新品に交換したばかりだといいます。しかし、古い設計の船体に新しい法令に基づいた救命関連設備を搭載するのは簡単ではなく、船体の小ささ故に設置には船体に開口部を作るなどして大規模な改修工事が必要となり、船の老朽化や採算性を考えるとその対応は難しいそうです。

 また、新しい安全対策は運行面でも求められています。事故後に決められた新しい運行規則には航路の気象条件が厳密に決まっており、「夢の平成号」では風速が毎秒8m以上、波高が0.8mを超えると運行停止となります。内海の陸奥湾の海面は穏やかですが、津軽海峡に隣接した平舘海峡は波風が比較的高く、天候の変化も激しいため、この運行基準を満たさずに運休となることが多いそうです。

 昨年の実績では、約6か月間の期間中で4割程度が運休。今回の筆者の場合も、最初の3日間は気象条件を理由に運休となり、4日目にしてようやくクルーズが実施され乗ることができました(運航判断は当日早朝に決められるため、電話で乗船券販売所である「むつ市脇野沢流通センター」に確認)。このような不安定な運行状況は、利用者数の減少と採算性に影響します。

 新しい運行規則や規正対応、気象条件の影響を受けやすい運行状況とそれによる採算性の悪化。加えて船自体の老朽化と船員の高齢化の問題もあり、この「夢の平成号」は2025年の廃止が決定されました。

 遊覧船の運航が見直されるきっかけとなった知床遊覧船沈没事故は、その被害と世間への影響を見れば、関連した法改正や規制強化は当然な流れだといえます。しかし、船や運航会社の規模によっては、新しい規制に対応が難しく、事業や船そのものを廃止する場合もあり、中小規模の船が現実的に対応できるような工夫も必要だったのかもしれません。

 下北半島を訪れる機会がある方は、ぜひ「夢の平成号」に乗り納めしてみるのもいいかもしれません。

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Writer:

雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info

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