ホリエモン航空業界参入で「“小型機界の革命児”日本で作るぞ」実現なるか? 最大のカベは“製造”ではない
地域航空会社「トキエア」が取締役に堀江貴文氏を迎え「軽量スポーツ航空機」の新事業を開始予定です。一体どのようなもので、事業成功にあたっては、法制度上にどんな課題があるのでしょうか。
「日本でLSA事業」最大の壁は作ることではない
このようななか、2025年7月にアメリカ運輸長官が正式発表したのが、「MOSAIC」と呼ばれる航空法の大規模改訂でした。その中身はLSAの大幅な拡大です。結果として4人乗りまでの小型機のほぼ全機種がLSAとして生産することが可能になった画期的な改訂でした。この改定はアメリカで10月22日から施行されますが、多くの国が追従する見込みです。
今回、トキエアが参入を表明した小型機もLSAを指していますが、日本で開発してアメリカに輸出するには、最初に日本でASTM規格適合宣言までの開発作業を行う必要があります。ここでネックとなる可能性があるのが、日本の航空法が諸外国に比べて遅れていることです。
日本ではLSAが実験機の一種であり実用機として制度化されていません。日米間には機体の認証やパイロットの資格を相互に認め合う「BASA」とよばれる二国間合意がありますが、その基本ルールは製造国が認めた機体に関しては相手国も追認する形式をとっているため、日本がLSAとして認めない航空機をアメリカがLSAとして認めることはかなり難しいといえます。
その理由は、BASAを適用するには日米間の航空法、安全基準や従事者資格などの細部にわたる共通化を前提としているからです。日米間のBASAは10年以上も前に締結されていますが、それを実行するための日米間の綿密な擦り合わせは進んでいるとは言い難く、これもMSJ失敗の要因ともいわれています。
日本の航空法が急速に進化してLSAが諸外国と同じ内容で法制化したと仮定すると、日本で開発された小型機がLSAとして認定されることは夢ではなくなります。ただし、それを海外に輸出するとなると、もう一つのハードルが存在します。日本人が乗らない新型機を海外のパイロットが乗りたいと思うでしょうか?
価格と性能面で圧倒的に優れている機体として完成すれば話は別ですが、日本で作られたLSAはまず日本国内で売れることが重要です。そのためには、現在日本の航空法では存在しないスポーツパイロットという新たな免許制度を日本においても導入することが望ましいと考えます。
日本で自家用操縦士が増えない理由は、免許取得に必要な時間と費用があまりにかかりすぎるためです。つまり飛べる資格を持つハードルが高いと、製造した機体が優れていても、その性能を国内ユーザーが「使って体感」し、海外にアピールするチャンスを逸していることになります。
LSA制度と同様で、主要国の中でスポーツパイロットが制度化されていないのは日本だけです。筆者はこれが、日本の国際競争力が下がり続けている理由の一つであるとも考えています。
トキエアの新規事業、小型機事業への参入は堀江氏が報道発表の場で仰っていたとおり「夢のある事業」です。筆者も日本人の一人としてこの事業の成功を切に願っています。ただ、そのために何よりも必要なのは日本の航空法そして航空行政の近代化だと考えます。
Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)
航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事





写真1枚目の説明文に「燕三条市」と書かれていますが、そのような自治体は存在しません。
燕市と三条市です。両市は県央地域であり、決して燕三条市ではありません。
ご指摘ありがとうございます。
記事を修正いたしました。