「早く抜けてくれ…“海の首都高”」やっと潜って“主戦場”へ 「潜水艦」の魚雷発射訓練に同乗 操舵手は20歳だった

そうりゅう型12番艦「とうりゅう」に乗艦。「海の首都高」を慎重に抜けて、訓練海域に入ると模擬魚雷の発射訓練が始まります。「沈黙」「隠密」を旨とする潜水艦は、ほかの水上艦とは違った航行の特徴が多くありました。

いよいよ模擬魚雷発射訓練

 潜水艦といえば潜望鏡です。指令所にある上下する長い筒状の貫通式が一般的でしたが、デジタルカメラで撮影する非貫通式も実用化されており「とうりゅう」は両方を備えます。

 潜望鏡深度では哨戒長が常に360度回転しながら監視し、レーダー、ソナー員と連携して周囲状況を確認します。潜望鏡にはスピーカーがあってレーダーの反応を音で聴くこともでき、潜望鏡で見ているものとレーダーに映っているものを一致させる工夫がされています。

 この日は深度50mで速度10ノット(約18.5km/h)を経験しましたが、水中を航行しているという感覚は全くありません。潜望鏡も使えない全没になると外の状況を知るのは音のみとなり、指令所ではソナーの反応を示すモニターに集中します。

 潜水艦は飛行機と同じように3次元に動ける乗り物です。しかし操舵手席では飛行機と違って外の様子を見ることはできません。ただ艦長や哨戒長の指示通りに操縦することが求められます。

 この日操舵スティックを握ったのは、若手20歳の三曹でした。艦長や副長、哨戒長にはおおよその定位置はありますが席はなく、指令所の全員を見渡せる位置に立って指揮します。哨戒長が命令を出し、艦長が承認するというスタイルです。市販の簡易な折りたたみ椅子が正規の「ぎ装品」として片隅に置かれていたのが印象的でした。

 いよいよ模擬魚雷発射訓練です。魚雷は発射管には装填せず、管内に注水し空気圧のみ模擬発射する「水打ち」といわれます。

 魚雷の威力や精度は向上していますが、発射を決めるのは人間です。水中からでは情報を得る手段が限られているため、潜望鏡、ソナー、レーダーを駆使して目標を正確に識別し、決断することが求められます。魚雷を命中させることよりもまず、発射までの手順を確実に素早くできるように訓練します。

 しかし潜水艦の本当の武器は、魚雷ではなく、海中に存在を隠せるということです。

 潜水艦の出航は探知できますが、いったん潜航すると所在が分からなくなります。それが1週間連続すれば「存在可能性圏」が北はロシアのカムチャツカ、南はフィリピンまで広がります。

 この広大な海域のどこかに日本の潜水艦が1隻はいるという可能性を示すことが、抑止力になります。潜水艦が日本の戦略的アセットといわれる所以です。しかし潜水艦を運用しているのは日本だけではありません。「沈黙の存在感」は潜水艦の武器。知られざる海中は最前線でもあります。

【写真】潜水艦内の魚雷(実弾)と発射管を見る

Writer:

1975(昭和50)年に創刊した、50年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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