「日本の鉄道=優れているけど“ガラパゴス”」がここにも? “標準化”の壁 AI活用の“初手でつまづく”恐れ
2025年11月に開催された「鉄道技術展」ではAI活用が多数紹介されました。日本の鉄道はデータ標準化の遅れが指摘される一方、世界に先駆けた先進的な取り組みも始まっています。
データの取り方が各社バラバラ!
前出の通り、日本の鉄道業界は独自の高い安全性と職人的な技術力で発展を遂げてきました。しかし、この独自性と属人化が、最新のAI技術導入の足かせとなりつつある様子です。
AI学習に必要なデータが、「機械可読なデータ」になっていないという実態がその一つです。例えば、線路構造などの重要な情報が、画像データのみ存在しており、AIが分析できる形式(オープンデータ化や標準化)での整備が遅れているという実態が示されました。
研究者の立場からも、AI応用への最大の課題として「データをどうやって手に入れるか」という声が上がっています。大学側が実機での実験環境を構築することは難しく、事業者との密な共同研究が不可欠ですが、セキュリティや機密性の問題から、データの利用が制限されがちであると指摘されています。
他方、収集されたデータが「あまりに膨大すぎてどう扱っていいかわからない」という事業者側の声もあると紹介されています。
さらに、日本の新幹線保守データ収集の方向性にも違いが見られます。東海道新幹線がいわゆる「ドクターイエロー」を廃し営業列車での測定に移行する一方、JR東日本は専用の検査車両を維持するなど、データの収集方法自体に差があり、欧州のようにデータを共通化して大量に集めるという方向とは異なる意識の差があることも指摘されました。
「一枚岩化」を進めてきた欧州
一方、欧州では国境を越えて列車が運行する「相互運用性(インターオペラビリティ)」を確保する必要があったため、以前からデータ標準化が進められてきました。
欧州連合(EU)の標準化規格群であるRAMS(信頼性、利用可能性、保守性、安全性)規格は、鉄道安全管理の土台となっており、国際規格(IEC 62278)としても採用されています。EN 17095:2019では、鉄道車両の保守履歴を事業者間で追跡・理解できるよう、故障日時、原因、交換部品の識別情報といった「記録すべきデータ要素の様式と構造」を統一しました。
この標準化されたデータ基盤を活用することで、予知保全は飛躍的に進化します。リアルタイムの状態データと過去の故障履歴を組み合わせ、深層学習モデル(LSTMなど)を用いて、設備の残存耐用期間(RUL:Remaining Useful Life)を推定し、「あと約3週間で故障する確率が高い」といった予測が可能になり、保守計画の最適化につながります。
さらにドイツ鉄道(DB)は、NVIDIA社と協力し、鉄道インフラと車両のほぼ全てを仮想空間に再現する「デジタルツイン」をDSD(Digitale Schiene Deutschland)プロジェクトの主導により構築しています。運行最適化、GoA4(完全自動運転)のAIトレーニング、RUL予測に基づく保守計画の策定といった、鉄道運行全体を最適化する役割が期待されています。





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