ヒトラーが“沈めた”!? 悲劇の独戦艦「グナイゼナウ」往時の象徴はノルウェーに現存
「世界で最も美しい巡洋戦艦」との呼び声も 1936(昭和11)年の12月8日は、ドイツ海軍の巡洋戦艦「グナイゼナウ」が進水した日です。 同艦は、シャルンホルスト級巡洋戦艦の2番艦として建造されましたが、「悲劇の戦艦」 […]
ヒトラーの鶴の一声でお役御免に
シャルンホルスト級巡洋戦艦は3連装28cm砲塔3基を備え、最大速力約31.5ノット(約58.34km/h)の高速を誇りました。そして1939年に第2次世界大戦が勃発すると、「シャルンホルスト」「グナイゼナウ」の2艦揃って、通商破壊戦(シー・レーン遮断)に投入されます。ところが潜水艦(Uボート)や仮装巡洋艦、ポケット戦艦のような大戦果に恵まれず、特に「グナイゼナウ」は事故や戦闘、イギリス空軍の空襲などにより、連続して損害を被ってしまいます。
きわめつけとなったのは、1942年12月31日のバレンツ海海戦でした。援ソ連輸送船団を撃沈しようと出撃したドイツ水上戦闘艦隊が、イギリス海軍の護衛艦隊に阻止されてしまったのです。この結果を報告されたヒトラーは激怒。赫々たる戦果をあげ続けているUボート艦隊と比べ、水上戦闘艦隊は被害ばかり被ってろくな戦果をあげていないではないか、と考えたのです。
終いには、ヒトラーは大型水上戦闘艦など役立たずの金食い虫であると結論付け、廃棄命令を発します。彼にしてみれば、そんな無用の大型水上戦闘艦は順次解体し、その主砲は沿岸砲台に転用すればよいというものでした。
その結果、ちょうど修理中であった「グナイゼナウ」が、その嚆矢として解体されてしまいます。
「グナイゼナウ」には前述したように3連装の主砲塔が3基備わっていましたが、1番主砲塔は解体され、3門の主砲は単装砲に分割されてオランダ沿岸に配備されました。
一方、2番主砲塔と3番主砲塔は、解体されず砲塔ごと要塞砲に転用されることとなり、前者はノルウェーのフィエル沿岸要塞に、後者は同国のアウストロット沿岸要塞にそれぞれ配置されています。
こうした流れを鑑みると、「グナイゼナウ」は味方のトップたるヒトラーによって「撃沈」されたと言えるでしょう。
ちなみに、残った船体は、大戦末期にゴーテンハーフェン(現グディニャ)を閉塞するため、港口に沈められています。
悲劇の巡洋戦艦「グナイゼナウ」。その遺産のひとつである3番主砲塔は、今日もアウストロット沿岸要塞跡で見学することができます。
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。





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