【鉄道車両のDNA】ロングとクロス 客層や時間に応じて変化する「デュアルシート車」

近年、関東の鉄道各社で導入が進む「デュアルシート」。列車の性格に応じてロングシートとクロスシートのどちらにも変化させることができる座席ですが、このタイプのシートはいつごろから現れ、どのように進化していったのでしょうか。

関西の旧型国電から始まったデュアルシート

 鉄道の旅客車両に設置されている座席は、大きく分けて「ロングシート」と「クロスシート」の2種類があります。

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西武鉄道40000系のデュアルシートがクロスシートからロングシートに変わる様子(2017年2月、草町義和撮影)。

 ロングシートはレール方向に長い腰掛けを設けたもの。立席スペースや通路を広くすることができるため、利用者が多い通勤列車での運用に向いています。これに対してクロスシートは枕木方向に並べる座席。通常のロングシートに比べ背もたれやリクライニング機構を導入しやすく、とくに長時間走る列車では快適性が向上します。立席スペースと通路は狭くなるためラッシュ時の運用には向いていませんが、着席時に外の景色が見やすく、観光客が多い列車向けの座席ともいえるでしょう。

 しかし、近年はクロスシートと同じ構造ながら、ロングシートにも変換できる座席が増えてきました。これを「デュアルシート」と呼びます。

 初めてデュアルシートを製作したのは国鉄です。1972(昭和47)、関西の片町線向けに投入された旧型国電72系の制御車1両(クハ79929)が改造され、ロングシートを手動で90度回す座席が作られました。クロスシート時には中間扉をふさいで2ドアで運用することが想定されていたといいます。

 このクハ79929がデュアルシートのはしりでしたが、 背もたれがロングシートと同じ高さまでしかないことや、切り替え時に手動であることが好まれなかったようです。結局、ロング・クロス変換機構は実際の運行では使われることがないまま、1977(昭和52)年に引退しました。

 それから20年近い歳月がたち、関西大手私鉄の近鉄がデュアルシートの開発に取り組みました。

 近鉄は特急を補完するものとして転換クロスシート車を走らせ、車内の快適性を向上させようとしました。その一方、クロスシート車ではラッシュの混雑に耐えられないため、ラッシュ時には詰め込みの効くロングシート車を充当することが必要でした。しかし、双方のシートの車両をそれぞれ配備することは過剰な投資となってしまいます。

 そこで考えられたのがデュアルシートの導入でした。ラッシュ時は混雑に耐えられるロングシートとし、それ以外は進行方向を向いて快適に乗車できるクロスシートに変換させ、時間帯別に座席の運用を変えることにしたのです。

 開発にあたっては、ひとりあたりの占有幅を480mm以上にすることや、転換時間を最長90秒以内とするなどの6つの目標が設定されました。1993(平成5)年から基本構想が練られ、近鉄は座席メーカーの天龍工業とともに開発を進めたのです。

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Writer: 鳴海行人(まち探訪家・フリーライター)

1990年、神奈川県生まれ。私鉄沿線で育ち、高校生の時に地方私鉄とまちとの関係性を研究したことをきっかけに全国のまちを訪ね歩いている。現在はまちコトメディア「matinote」や「公共交通×IT最前線レポート」などで交通やまちに関する記事を執筆中。趣味はローカル私鉄やローカルバスに乗ること。

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