なぜ不正乗車を「キセル」と言うのか? 大正時代に「煙管乗り」という言葉も

「キセル乗車」は戦前から悩みの種

 いつから不正乗車を表す言葉として「キセル」が用いられるようになったのか、はっきりしたことは分かりません。

 ただ、京都鉄道(現在のJR山陰本線)や阪鶴鉄道(現在のJR福知山線)の社員だった山内覚成氏が1925(大正14)年4月に発行した追想録に、「煙管乗り」という項目があります。その項で山内氏は「不正乗客といふ者は、浜の真砂と同様……紳士にでも、宗教家にでも、教育家にでも……昔も今も盡(つ)きる時はない」と語っており、「煙管=キセル」が不正乗車の代名詞として、古くから使われていたことを示しています。

 ちなみに、1931(昭和6)年9月17日付けの東京日日新聞によると、「定期券の不正乗客は厳重な検札の網をくぐって最近ますます増加」「東京付近だけでも一日八千人という驚くべき数に達する有様」だったといいます。

 いまでは、不正乗車の防止機能を盛り込んだ自動改札システムが普及しており、中間の運賃だけ払わないキセル乗車は大幅に減少しました。この防止機能を導入した阪急電鉄の場合、導入後1年間で約8億円の損失を防ぐことができたといいます(1996年12月3日付け読売新聞大阪朝刊)。

 しかし、別の方法による不正乗車は後を絶ちません。いまでも、不正乗車が発覚して多額の増運賃(事実上の罰金)を請求されたり、詐欺罪などで逮捕されたりするケースを、ときどき耳にします。不正乗車を行う人と、それを防止しようとする鉄道事業者の「いたちごっこ」は、いまも続いているのです。

【了】

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