難波や奈良へ直通10周年 阪神なんば線の全線開業で阪神電鉄はどう変わった
今後の課題は「直通拡充」と「ホームドア」
阪神と近鉄の関係者によると、相互直通運転で神戸と奈良を行き交う訪日外国人観光客が増えたといいます。このほか、沿線住民の“距離感覚”も変えたといえるでしょう。
たとえば、武庫川女子大学(兵庫県西宮市、最寄り駅は阪神の鳴尾駅)の2010(平成22)年度の入試では、奈良県内からの受験生が前年度に比べ36%増えました(2010年3月20日付け読売新聞大阪朝刊)。阪神なんば線の全線開業を機に、所要時間が短縮された阪神線方面の大学に通おうと考えた奈良の受験生が増えたことをうかがわせます。
今後の課題としては、直通運転の拡充が挙げられます。近鉄特急の阪神線への乗り入れや、阪神線と相互直通運転を行っている山陽電鉄も含めた3社直通の構想が以前からあり、仮に3社直通が実現すれば、山陽電鉄の山陽姫路駅から近鉄名古屋駅までの約280kmを、乗り換えなしに私鉄の列車だけで移動できるようになるかもしれません。
これらの構想は実現していませんが、2014(平成26)年からは、近鉄の特急車両を使った阪神線と近鉄線の直通貸切列車ツアーが行われるようになりました。阪神と近鉄の担当者によると、神戸から伊勢方面への観光ツアーや、名古屋発の甲子園観戦ツアーなど、これまでに約80回のツアーが実施され、約9500人が参加したといいます。
阪神と近鉄の車両は車体の長さやドアの位置が統一されておらず、ホームドアの設置が難しいことも、大きな課題のひとつです。近鉄は現在、下に沈む方式の新型ホームドアを研究中。この方式が実用化されれば、ホーム上にドアの収納箱や支柱を設置する必要がなく、車両のドア位置がバラバラでも対応できます。
こうした構想や新技術が「次の10年」で実現することになるのかどうか、今後の動きが注目されます。
【了】
Writer: 草町義和(鉄道ニュースサイト記者)
鉄道誌の編集やウェブサイト制作業を経て鉄道ライターに。2020年から鉄道ニュースサイト『鉄道プレスネット』所属記者。おもな研究分野は廃線や未成線、鉄道新線の建設や路線計画。鉄道誌『鉄道ジャーナル』(成美堂出版)などに寄稿。おもな著書に『鉄道計画は変わる。』(交通新聞社)など。
コメント