新興バス会社が挑む「高速バス王国」九州 老舗ひしめく昼行路線への新規参入、勝算は?

成功には何が必要?

 迎え撃つ既存事業者としては、単なる値下げで対抗するのは得ではないと筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)は考えます。きちんと収益を確保し、それを車両更新やサービス向上に回し続けるサイクルが止まれば、路線は衰退に向かってしまうからです。既存事業者の強みは、強固な顧客基盤と地元からの信頼、そして何より高頻度運行の利便性ではないでしょうか。

 その利便性をさらに追及するため、発車時刻直前までウェブ上で乗車便を変更できるようにすることや、繁忙日において着実に続行便を設定し「満席で乗車お断り」をなくす努力が求められるでしょう。高速バスの営業面の規制は以前に比べ柔軟になっており、座席管理システムも機能が充実していることから、上手に使いこなせば乗客のニーズにもっと応えられるはずです。他地方に比べ九州で遅れている、パーク&ライド駐車場(自家用車とバスを乗り換えるための駐車場)のさらなる充実も必要でしょう。

 ユタカ交通側にも、大きな課題があります。座席管理システムが、昼行路線に多い当日のフリー乗車(飛び乗り)や直前の便変更に対応していないという利便性の問題もありますが、何よりも、習慣的に既存路線を利用している乗客に、後発である同社の路線を「もうひとつの選択肢」として知ってもらうため、地元での積極的な情報発信が必要です。

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西鉄天神高速バスターミナルのバス専用出口。昼行路線が次々と発車する様子は壮観(2018年11月、成定竜一撮影)。

 その情報発信の成功例として、海部観光(徳島県美波町)の徳島~大阪線が挙げられます。同社は東京線用として運行している全12席の超豪華車両「マイ・フローラ」が、新聞やテレビで何度も紹介され有名になりました。その裏側で、着実に大阪線の増便を重ね、地元新聞に広告を毎週掲載し、パーク&ライド駐車場も整備しました。「徳島の先頭を走りたい」というタグライン(企業スローガン)も、地元重視の姿勢を表していて徳島県民の心に響きます。同路線は新興事業者が昼行路線へ新規参入し成功した数少ない例であり、2019年7月現在で13往復にまで成長しています。

 大阪に本社を置くユタカ交通ですが、社長(創業者)は佐世保出身とのこと。長崎県の企業になったつもりで、地元密着の営業活動を行えるかどうかに成功がかかっています。このような昼行路線には、就職活動の学生、単身赴任者や介護のための帰省客など、毎週のように利用する乗客が多くいます。利用頻度が高いぶん、運賃(価格)を重視し、周囲の口コミ情報にも敏感です。まずは、新聞やラジオを活用し、コアなリピーターに「知ってもらう」ことが重要です。

【画像】新規に開業した福岡~長崎線・佐世保線の運賃

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コメント

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1件のコメント

  1. 深刻な運転士不足のご時勢、新規参入の話題は非常に珍しく感じられた。
    ただこの記事を観て初めて知るほど、あまりにも知名度がない。
    運賃が異常に安いが、やはりこのご時勢、むしろ心配すらなってしまう。
    福岡側は博多だけで、肝心の天神を一切通らないのも気になる。。。
    とりあえずずっと続いてくれればうれしいのだが。。。