震災被害の南相馬に東京行き高速バス復活 混乱期から「地元の足」支えたバス会社の軌跡

地元貸切バス会社にすぎなかった東北アクセスの大成長

 相双地区は、福島県にありながらも仙台の商圏に位置し交流も大きかったことから、大震災後はまず仙台への交通再開を望む声が大きく、東北アクセスが大震災直後に素早く乗合事業許可を得て、南相馬~仙台線の運行を開始しました。なお同社は当時「はらまち旅行」という社名で(「はらまち(原町)」は南相馬市の旧市名)、旅行業と貸切バス事業が中心でした。

 その後、常磐道の全通(2015年)にともない東北アクセスは南相馬~仙台線を高速道路経由に付け替えるとともに、南相馬~福島線なども運行を開始し、一躍、中堅の高速バス事業者に成長しました。このたび運行を開始した東京線は、同社で初めてのトイレ付き車両による、座席指定(予約)制路線です。

 東北アクセスの遠藤竜太郎社長は、大震災直後に仙台線の運行を開始した際、「混乱のなか、まずは地元の足を確保したいと必死でした。高速バスの運行に際しては、仙台駅前に停留所を設置する許可を得るべく関係機関を走り回りました。特例の臨時運行扱いにすれば停留所は必ずしも必要なかったものの、あえて正式な許可を得たことで、その後の路線展開が実現しました」と、当時を振り返ります。

 今回の南相馬~東京線も乗り入れる南相馬バスターミナルは、東北アクセスが2018年に新設したもので、南相馬ICの目の前に位置し、170台ぶんのパーク&ライド駐車場を備えます。すでに仙台線と福島線が乗り入れており、「地元の皆様には、南相馬の新しい玄関口をしてご認識いただいています」(遠藤社長)。東京線の運行開始により、遠藤社長は南相馬市のさらなる交流人口拡大に寄与したいと考えているとのことです。

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東北アクセスの南相馬バスターミナル(2019年7月、成定竜一撮影)。

「お客様から『早く東京線を』と何度もお声をいただきました。構想から5年かかってしまったものの、課題をひとつひとつ社員らが解決し、ようやくこの日を迎えました」(東北アクセス 遠藤社長)

 これに対し南相馬市の門馬和夫市長は、東京線の運行初日に行われた式典に参列し、「東京直通の交通手段を実現してくれ大変頼もしい。しかし、これも通過点に過ぎません」と、復興への思いを語りました。

 なお、東北アクセスが東京線用に用意した新車には、地元の有名な祭り「相馬野馬追」の絵がラッピングされています。さっそく運行開始の翌週、7月27日(土)から29日(月)に「相馬野馬追」が開催されます。首都圏などで暮らす南相馬出身者が、このラッピング車両で数多く帰省してくるはずです。

【了】

【写真】後ろがド派手! 南相馬~東京線用の車両

Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)

1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。

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