海底下数千m、巨大地震の発生現場どう探る? 研究の最先端は異形の船「ちきゅう」に!

掘って、それから?

 こうして地中の試料を採取し分析することで、何がわかるのでしょうか。「ちきゅう」のミッションとしては、たとえば深海底下で生命の起源を探求することや、地球環境の変動を調べ将来予測に寄与すること、マントルまで掘り進み研究未踏領域を切り拓くこと、海底資源の探査などが挙げられますが、冒頭でふれたように、巨大地震およびそれにともなう津波の発生メカニズムの解明にも大きく貢献しています。

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「ちきゅう」の大きな特徴のひとつ、船体中央にそびえる掘削櫓「デリック」を船首側の研究区画から(貝方士英樹撮影)。

 東日本大震災後、2012(平成24)年に行われた「東北地方太平洋沖地震調査掘削(JFAST:Japan Trench Fast Drilling Project)」では、地震の発生源と見られる「プレート境界断層」そのものから試料を直接掘り出し、その掘削孔内に温度計などを挿入して定置、長期間の温度計測を行いました。その結果、震源断層域におけるプレートの滑りなどの実態や大津波発生メカニズムを世界で初めて明らかにし、これらは発生が予測される南海トラフ地震などへの防災・減災対策としても活かされています。

 もちろん、南海トラフ地震そのものに関する調査、科学掘削も進められています。2018年10月7日から2019年3月31日までの約半年間にわたり実施されていた、世界26か国が参画する共同計画に基づく航海では、当初計画を断念するなど紆余曲折もありましたが、掘削で生じる「カッティングス」と呼ばれる岩石の破片を採取し分析、研究するなど、おそらく世界初の試みも実施されています。このときの掘削で得られた試料をもとに、各種の分析や研究の統合的な取りまとめが現在、行われています。

 こうした調査で掘られた海底の孔(あな)は、地震の早期警戒監視システム構築にも活用されています。たとえば紀伊半島近傍の熊野灘沖東南海震源域における地震・津波観測監視システム「DONET(ドゥーネット。Dense Oceanfloor Network system for Earthquakes and Tsunamis)」は、海底の孔に設置した観測機器のネットワークにより、ゆっくりした動きの地殻変動や大きな地震動までリアルタイムの観測が可能で、巨大地震とそれにともなう津波の早期検知が見込めるものです。

 地震の多い我が国にとって防災・減災を推進するためには、こうした早期検知システムや、「ちきゅう」の科学掘削などがより重要になってきます。

【了】

【写真】海底地盤に挑む「ちきゅう」のドリルの最先端部分 ほか

Writer: 貝方士英樹(編集者/ライター)

かいほし ひでき。自衛隊雑誌や軍事専門誌の編集者・ライター。陸海空のメカニズムとそれを運用・整備する人々の仕事に興味がある。深海に惹かれ「しんかい6500」の取材を10年前から開始。海洋研究開発機構が保有運航する全ての研究船を取材中。

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