海自艦艇の中東派遣、根拠法の「調査研究」って何? 航空機による警戒監視も実はコレ
便利な「調査研究」 そのメリット、デメリット
防衛省および自衛隊はこの「調査研究」を、非常に使い勝手のよい便利な規定として様々な場面に活用してきました。たとえば、日本周辺地で怪しい動きがないかどうかを自衛隊が艦艇や航空機を使って常時監視している、いわゆる警戒監視活動について、防衛省がその活動の根拠としているのは「調査研究」です。これは、防衛省が警戒監視を「日本を防衛するという防衛省の所掌事務の遂行に必要な調査および研究」ととらえているためです。
さらには2001(平成13)年に発生した「9.11同時多発テロ」を受けて、同月に神奈川県の横須賀基地から出港するアメリカ海軍の空母「キティホーク」を、海上自衛隊の護衛艦がエスコートした際も、日本政府はこれを警戒監視活動の一環としてとらえ、その法的根拠は「調査研究」であると説明しました。また「調査研究」を実施できる地理的範囲は、「防衛省の所掌事務の遂行に必要な範囲であるか否かとの観点から決められるべき」というのが日本政府の立場で、つまりこれに関しては特段の制約はないというふうにとらえることも可能です。
この「調査研究」という規定は、上記のように、平時に自衛隊が活動する際の法的根拠という面では非常に使い勝手のよい規定ですが、その反面で武器を使用することができないというデメリットも存在します。たとえば、自衛隊法上の「海上警備行動」や「治安出動」であれば、「こういった場合に武器を使うことができます」という規定が盛り込まれています。しかし、すでに見た通り「調査研究」にはそれがありません。つまり、「調査研究」を根拠として警戒監視活動を実施する場合、派遣される自衛隊の艦艇や航空機が武器を使用するためには、そのほかの法的根拠が別途、与えられていなければならないのです。
中東への自衛隊派遣を「調査研究」で行うというのは、情報収集および自衛隊によるプレゼンス(存在感)を示すという観点からは非常に理にかなった選択ですが、もし事態が悪化した場合には、上記の武器使用に関する制約もあり、「海上警備行動」など別の根拠規定への切り替えが必要になってくるでしょう。
【了】
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。
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